2022.12.21

倉谷滋のお勧め<まとめ第3弾>

倉谷滋先生お勧めのクラッシック論文を紹介します。

21. Goodrich, E. S. (1915). Memoirs: The Chorda Tympani and Middle Ear in Reptiles, Birds, and Mammals. Journal of Cell Science 242, 137–160.
これは典型的な比較形態学の論文。だが、発生パターンの違いが重視されている。動物によってこんなにパターンが違うのかと認識させてくれる。

22. Graham, A., Koentges, G. & Lumsden, A. (1996). Neural Crest Apoptosis and the Establishment of Craniofacial Pattern: An Honorable Death. Molecular and Cellular Neuroscience 8, 76-83.
菱脳の分節構造のうち、第3,第5のロンボメアが神経堤細胞を発するのかどうか、90年代、これがニワトリ胚発生研究の領域で大問題になったことがある。なぜだろうか。科学論争の本質を知るためにも興味深い。

23. Hogan, B. L. M., Thaller, C. & Eichele, G. (1992). Evidence that Hensen's node is a site of retinoic acid synthesis.Nature 359, 237–241.
この論文が書かれた一部始終を私はそばで見ていたが、そのときの経験がのちに非常に役に立った。90年代のいわゆる「発生生物学の黄金時代」を象徴するような心意気の論文と言えるかも知れない。

24. Jeffery, W. R., Strickler, A. G. & Yamamoto, Y. (2004). Migratory neural crest-like cells form body pigmentation in a urochordate embryo. Nature 431, 696–699.
Gans & Northcuttによる「New Headセオリー」は、神経堤とプラコードが脊椎動物を定義すると述べ、結果、神経堤の起原を極める研究が脊椎動物の起源を語ると認識された。その一方でその前駆体がホヤに存在するという研究が相次いだ。その最初のひとつがこれ。

25. Jollie, M. (1981). Segment Theory and the Homologizing of Cranial Bones.The American Naturalist 118, 785-802.
脊椎動物頭蓋要素の発生起源は動物によって違うのか。その背景にどのような予測があったのか。古典的な比較形態学的コンセプトの終着点を示す論文のひとつだが、それが正しいというわけではない。

26. Kuntz, A. (1910). The development of the sympathetic nervous system in mammals. Journal of Comparative Neurology and Psychology 20, 211-258.
一言でいうとKuntzによる一連の論文は、組織発生学的に末梢神経系の発生を推論したもので、ほぼ正しくそれらが神経堤に由来することを見抜いている。実験発生学が明らかにしたのは、彼の観察眼の正しさだったのかも知れない。

27. Langille, R.M. & Hall, B. K. (1988). Role of the neural crest in development of the trabeculae and branchial arches in embryonic sea lamprey, Petromyzon marinus (L). Development 102, 301–310.
ヤツメウナギ幼生の軟骨頭蓋の一部が神経堤に由来すると述べた論文。今にして思うと、これは進化発生学が勃興する前になされたユニークな試みだった。が、この動物の梁軟骨はいまでは中胚葉由来とされている。

28. Le Lièvre, C. S. (1978). Participation of neural crest-derived cells in the genesis of the skull in birds. Development 47, 17–37.
鳥類胚の頭蓋の由来については1993年のCouly et al.が引かれることが多いが、ここにあげたLe Lièvreの知見がNodenの見解に近いことはあらためて注目すべきだろう。この論文の中のmesectodermとは、ectomesenchymeのこと。

29. Lufkin, T., Mark, M., Hart, C. P., Dollé, P., LeMeur, M. & Chambon P. (1992). Homeotic transformation of the occipital bones of the skull by ectopic expression of a homeobox gene. Nature 359, 835–841.
Hox遺伝子のKO実験が興味深い表現型をもたらしていた真っ盛りの論文。ある意味、典型例と言える。脊椎動物頭蓋のうちでも後頭骨はもともと椎骨であったものが変形して頭蓋に二次的に組み込まれたものとされる。進化とメタモルフォーゼを学ぶのに最適。

30. Mallatt, J. (1984). Early vertebrate evolution: pharyngeal structure and the origin of gnathostomes. Journal of Zoology 204, 169-183.
ヤツメウナギの鰓葉は軟骨支柱の内側にあり、サメのものは外側に結合している。ならば鰓弓骨格は両者において相同ではない?あるいは、神経堤細胞が移動と分布を変えたのか?相同性を発生学的に読み解く第1歩としてお奨め。

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