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クモ胚発生における放射相称から左右相称への変換


秋山-小田 康子1,2  小田 広樹2

科学技術振興機構・さきがけ1,JT生命誌研究館2


直交する2つの軸(前後軸と背腹軸)の形成は左右相称性の確立の基礎となる。脊椎動物とショウジョウバエの体軸形成には、BMP/dppchordin/sogなど相同な分子が働いていることが知られているが、体軸形成機構は主に2つの点で異なっている。(1)脊椎動物では前後、背腹の軸は形態形成を伴った細胞間コミュニケーションにより形成される。一方、ショウジョウバエでは生み出された卵の中に、異なる母性因子の直交するグラディエントとして、既に前後、背腹の軸が潜在し、体軸形成に形態形成は伴わない。(2)脊椎動物の体軸形成では中胚葉が重要な役割を果たすが、ショウジョウバエでは中胚葉は積極的な役割を果たさない。このような相違点を解析することは左右相称性の進化を理解するために重要である。鋏角類のオオヒメグモはショウジョウバエと同じ節足動物に属するが、胚発生においてまず形態的に放射相称の胚盤が完成する。今回私達はクモの胚盤における左右相称性の確立を、上記2つの点から解析した。胚盤の放射相称性はsogotdの発現が同心円のパターンを示すことから分子的にも支持された。この放射相称性は間充織細胞がDppシグナルを出しながら移動することにより崩壊した。この現象は胚外領域の誘導と関係しているようだ。そして胚盤は胚帯へと細胞の再配列を伴って変化した。この変化の間にsogの発現領域は円周方向に徐々に狭まりかつ前後に伸長し、最終的には腹側正中線上に限局した。これによって直交する2つの軸が顕在化した。さらに別の解析からクモの中胚葉は将来の背腹軸とは関係なく生じること、少なくとも初期の体軸形成に関与しないことが明らかになった。このようにクモの体軸形成機構は第1の点では脊椎動物と、第2の点ではショウジョウバエと共通性が見られ、脊椎動物と節足動物の共通祖先の体軸形成を理解する手がかりを与えることが期待される。


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