○橋本 有弘
三菱生命研・幹細胞
哺乳動物において、骨格筋は肝臓とともに強い再生力を有する器官である。
筋再生系の主要な担い手は、筋サテライト細胞と呼ばれる「筋組織幹細胞(muscle specific
tissue stem cell,
筋TS細胞)」である。骨格筋が損傷を受けると、筋サテライト細胞は活性化され、増殖を開
始し、筋前駆細胞(筋芽細胞)となる。筋芽細胞は分裂・増殖しつつ、損傷部位に遊走し、
互いに、あるいは既存の筋繊維と細胞融合することによって修復に寄与する。
私たちは、マウス筋サテライト細胞の初代クローン培養系を樹立し、筋サテライト細胞が筋
繊維のみならず、骨芽細胞および脂肪細胞にも分化しうることを証明した。驚くべきことに
、この多能性筋前駆細胞(マルチブラスト、multiple tissue
blast)は、異なる細胞系譜の決定に必須である複数の分化決定因子を同時に発現してい
た。さらにマルチブラストは、分化刺激に応じて、選択された分化系譜に特異的に分化決
定因子のみを残し、他の「必要のない分化決定因子」の発現を停止することによって単能
性(monopotent)
になることが明らかになった。私たちは、これらの結果をもとに細胞分化過程における「決
定の転換(trans-determination)」とは全く異なる、新しい分化決定・転換機構を示す「Stock
options
model」(「選択枝をとっておく」という意味合いをこめて命名した)を提唱するに至った。
近年、骨格筋組織にはSP細胞、pp6細胞など、筋サテライト細胞とは異なる幹細胞様の細
胞が存在することが示されてきた。また、最近、骨髄幹細胞が筋サテライト細胞の起源であ
ると結論づけた論文も発表された。本講演では哺乳動物における筋再生の機構を筋サテ
ライト細胞の役割という視点から概説するとともに、これらサテライト細胞以外の骨格筋幹
細胞様細胞に関する研究の内包する問題点についても議論する。
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