○松田 洋一 黒岩 麻里 山田 和彦 梅原 千鶴子
北大・先端科技共研セ・動物染色体研
脊椎動物において性染色体構成と性決定様式の間に明確な関係がみられる
のは、哺乳類 (XX/XY型) と鳥類 (ZZ/ZW型) そして爬虫類では新蛇類に属するヘビ
(ZZ/ZW型)
である.一方、哺乳類では単孔類で、鳥類では平胸類において性染色体分化の初期過程
が観察される.深胸類では顕著なW染色体の矮小化とヘテロクロマチン化がみられるのに
対し、平胸類ではW染色体に小さな欠失がみられるだけで、Z染色体との間に形態的に大
きな差はない.旧蛇類ではZW染色体間に差はみられない.哺乳類ではY染色体の顕著な
矮小化とヘテロクロマチン化がみられるのは有袋類と真獣類である.また、モグラレミング
(Ellobius 属)や日本産のトゲネズミ(Tokudaia
属)のようにY染色体が消失した特殊な例もある.真獣類と有袋類ではY染色体上に存在す
るSry (sex determining region Y)
遺伝子が雄性決定因子であるのに対し、単孔類ならびにY染色体を欠くモグラレミングとト
ゲネズミにはSryの存在は認められず、別の性決定因子の存在を想定しなければならない
ようである.鳥類と爬虫類の性決定機構については依然不明のままである.
哺乳類のXY染色体と鳥類のZW染色体の起源は異なることが最近の研究で明らかとなった
.ニワトリZ染色体はヒトの5番染色体と9番染色体に対して高い相同性をもち、X染色体と
の間に相同性は認められない.逆に、ヒトX染色体はニワトリの常染色体と相同性をもつ.
また、最近我々は爬虫類のスッポンとシマヘビにおいてニワトリとの比較染色体地図を作
製し、スッポンでニワトリZ染色体に対応する染色体が存在すること、そしてヘビのZ染色
体がニワトリZ染色体に対応しない可能性を見いだしている.
これらの結果は、ヘビとトリの性染色体が独立に分化したことを示唆する.また、我々は最
近、ニワトリZ染色体には哺乳類のX染色体のような不活性化機構は存在しないが、Z連鎖
遺伝子がZZ-
ZW間で発現量を変えて遺伝子量の補償を行っていることを見いだした.性染色体への分
化という現象は、ある特定の染色体が必然性をもって分化するのではない偶然の出来事
であり、性染色体に分化した染色体上の遺伝子の発現量が臨機応変に補償される機構が
存在するようである.そして、性染色体の分化には、性決定に関連した遺伝子を除けばそ
の他の遺伝子群の種類は関係ないようである.本講演では、性染色体の進化と性決定機
構の関連について最近の知見を含めて詳しく紹介したい。
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