○羽生(中村) 賀津子1 中村 輝1,2 小林 悟3
理研・CDB1,科技団・さきがけ2,基生研・統合バイオ3
多くの動物において、生殖細胞は胚発生の早い時期に体細胞から分かれて、独自の発生プログ
ラムに従って分化する。ショウジョウバエの予定始原生殖細胞(極細胞)は、胞胚期に胚の後極に形成され、そ
の後、胚の生殖巣まで移動し、始原生殖細胞へと分化する。この極細胞の形成、移動、分化過程には、卵形成
過程で合成されて卵内に蓄積した母性因子が必須の役割を果たしていることが知られている。現在までに、極
細胞の形成に関わる母性因子は数多く単離されており、それらの機能解析も進んでいる。しかし、極細胞の移
動、分化過程に関わる母性因子の実態や機能については明らかにされていない点が多い。
私たちは、極
細胞の移動、分化過程を制御する分子機構を明らかにするために、この過程に異常が生じる母性効果突然変
異体のスクリーニングを行った。得られた突然変異系統N14では、極細胞は正常に形成される。しかし、
これらの極細胞は、その後の移動過程で急速に消失する。極細胞が失われる時期は、極細胞中での遺伝子発
現の開始時期とほぼ一致していた。
次に、N14変異の原因遺伝子の同定を行った。その結果、N
14変異がwunen
2遺伝子中の111番目のコドンのナンセンス変異であることを見いだした。wunen
2は2型ホスファチジン酸ホスファターゼ(PAP-2)をコードしている。PAP-
2は膜貫通型のタンパク質であり、近年、シグナル伝達系の調節酵素としての機能が提唱されている。興味深
いことに、胚発生過程における体細胞での胚性PAP-
2の発現が、極細胞の生殖巣への移動に必要であることが報告されている。私たちの結果は、母性wunen
2もまた、極細胞の移動、分化過程において重要な役割を持つことを示している。
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