青沼 宏佳 ○荒井 秀朗 辻村 秀信
東京農工大 発生生物
遺伝子機能の研究には突然変異とともに遺伝子の異所発現の解析が不可欠で、しかも、効果的 である。そのため、ショウジョウバエにおいては、個体の生死にほとんど影響せずに遺伝子の異所発現が可能 な複眼やキノコ体の形態形成や生理機能に働く遺伝子の研究が特に発達している。われわれは、ショウジョウ バエにおいて、同様の特徴を持つ新しい遺伝子異所発現系として、間接飛翔筋で特異的に遺伝子発現を行う ことのできるActin88F- GAL4系統を開発した。今回は、この系統の特徴と、いくつかの既知遺伝子の異所発現により引き起こされる間 接飛翔筋の発生異常について報告する。 Act88F- GAL4系統は間接飛翔筋のみで発現するとされるActin88F遺伝子の調節領域をGAL4につないだDNAをハエに 導入し作製した。この系統におけるGAL4発現を、レポーター遺伝子UAS- GFPを用いて解析したところ、期待通り間接飛翔筋でGAL4を強く発現した。この発現は、発生中の間接飛翔筋 でAPF24hから始まり羽化後7日目頃までつづいた。また、間接飛翔筋以外の少数の筋肉でも発現し、jump muscleでは羽化7日目以後発現を開始し、これは羽化26日以後までつづいた。しかし、組織切片による解析に よると、Act88F- GAL4系統の間接飛翔筋は羽化後ほとんど成長せず、成虫では野生型よりも細いという異常も見られた。この 系統を用いて、細胞死誘導遺伝子のreaper, hid, grim を発現したところいずれの場合にもハエはきわめて元気であるが、間接飛翔筋は細胞死によりほとんど形成さ れず、遺伝子異所発現の効果が確かめられた。さらに、様々なホメオティック遺伝子、シグナル伝達系遺伝子、 Gタンパク質遺伝子を発現させたところ、筋肉が全く形成されない、筋繊維数の減少、筋付着点の異常、より細 い筋繊維など様々な筋肉発生異常の表現型を得た。
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