○中村 典子1 大隅 典子1 若松 義雄2,3
東北大・院医・形態形成解析1,東北大・院医・器官構築2,PRESTO・JST 3
中枢神経系の発生において、神経幹細胞は自己複製を行いながら、分化したニューロンやグリア を生み出す。この過程において、神経幹細胞は非対称分裂をしている可能性が考えられる。すなわち、細胞分 裂期における神経分化制御因子の非対称な局在とそれに続く不等分配が、分裂後の細胞運命決定に寄与し ていると考えられる。過去の報告では、神経幹細胞の分裂面が脳室面に対して垂直の時が対称分裂であり、 平行もしくは斜めの時が非対称分裂ではないかと言われている。しかし、固定した標本では非対称分裂と思わ れるような分裂方向の細胞はごく少数しかみられず、分裂方向と分化の関連には懐疑的な意見もあった。 我々はこれまでに、Notchシグナルを抑制する細胞内因子であるNumb蛋白質が、神経上皮の分裂中の細胞で 基底膜側に非対称に局在することを示した。さらに、Numb同様の細胞内局在を示す中間径フィラメント分子で あるTransitinがNumbの局在のための足場になっていることを明らかにしてきた。 本研究では、Transitin- Numb複合体の分裂時の動態を生細胞で観察することで、非対称分裂のプロセスを明らかにすることを目的と した。より具体的には、鳥類胚の終脳において、Transitinの断片とEGFPの融合蛋白質および核移行型DsRed 2蛍光蛋白質を神経上皮細胞に強制発現させ、スライス培養下で細胞分裂時のTransitinの断片と染色体の振 舞いを経時的に観察した。これにより、対称分裂に分類されるであろう分裂方向であっても、基底膜側に局在 したTransitin- EGFPが分裂中期以降に側方に移動することによって不等分配されている様子が数多く観察された。このこと から、分裂方向だけを調べた場合には、非対称の頻度を低く見積もってしまうと考えられる。現在、非対称分裂 後の細胞運命を調べるために、長時間の経時的観察を行っている。
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