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神経管の形態形成における放射状グリアの役割


畠山 淳1  加藤 一夫2  大河原 重雄2  藤岡 満喜夫3  別所 康全1  影山 龍一郎1

京大・ウイルス研1,自治医大・解剖2,京大・医3


中枢神経系の発生過程では、内腔面に位置する未分化細胞(放射状グリア)から一定の時間をか けて様々なニューロンやグリア細胞が分化してくる。この過程では、分化のタイミングを調節するメカニズムが あり、全ての未分化細胞が一斉に分化を始めてはしまうことはない。当研究室では今までにbHLH因子Hes1及 びHes5が分化のタイミングを制御することを報告してきた。Hes1やHes5を欠損すると分化が早くなり、逆にHes 1,Hes5の強制発現では分化が遅れることがわかっている。そこで我々は一定の時間かけて分化すること、す なわちある一定期間未分化な細胞を維持し続ける意義を詳細に検討するために、短期間に一斉に神経分化 が起こるHes1Hes5 double knockout mouse(dKO)を解析した。 E10.5では野生型の脊髄に比べて、dKOでは神経の分化が促進しており、顕著に未分化な細胞が減少し、さら に形態異常が生じていた。この異常は、電子顕微鏡の観察や免疫染色により、細胞間の接着帯の欠失が原因 であることが明らかとなった。この接着帯が失われる所は、神経分化が進み未分化な細胞が全く存在しない場 所と一致していた。 このことから未分化細胞は、神経管の内側で接着帯を形成して内腔とのしきりを保ち、形態を維持していること が示唆された。 さらにこの領域ではニューロンばかりが生じており、グリア細胞や将来神経管内腔に面した所に配列するepen dymal cellは生じていなかった。E9.0- E10.5頃の未分化細胞はニューロンしか産生できず、成体で内腔とのしきりを未分化細胞に変わって担うと考え られるependymal cellを産生できずに形態が崩れると考えられる。 このことから未分化細胞をある時期まで維持して一定期間かけて神経分化を起こす意義には、形態を維持す る役割があることが示唆された。


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