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ウズラ・アグーチ遺伝子の同定と発生過程における発現パターンの解析


丹羽 透1  中村 明2  塩尻 信義3

静岡大・院理工・環境1,静岡県大2,静岡大・理・生地3


哺乳類の体毛色はα-メラニン細胞刺激ホルモン(α- MSH)のシグナル系によって制御されている.その中でも中心的な役割を担っているのがアグーチ・タンパク質 (AP)であり, 色素細胞周囲の環境から分泌され, α- MSHとその受容体であるメラノコルチン1受容体への結合を阻害することで色素細胞での色素の合成を黒色か ら黄色へ切り替える.近年, 鳥類においてもα- MSHのシグナル系が羽毛色の決定に重要であることが示唆されているが, APは鳥類において同定されていなかった.今回, 我々は鳥類(ウズラ)において初めてAP遺伝子を同定した.ウズラのAP遺伝子は 133アミノ酸のペプチドをコードしており, アミノ酸配列で種々の哺乳類のAPに対し全体として平均45%, 特にN末端側塩基性ドメインにおいて比較的高度の相同性(平均53%)を示した.哺乳類のAP間で高度に保存 されているC末端側のシステイン・リッチ・ドメインにおいては, システイン残基の配置は完全に保存されていたが, ドメイン全体としての相同性は平均46%であった.ウズラ胚の背部や大腿部の羽毛芽中には黒色と黄色の縞 模様があり, マウス等の体毛に見られる縞模様と酷似している.このウズラ胚羽毛芽の発生過程におけるAP遺伝子の発 現を組織化学的に解析したところ, 背部や大腿部では羽毛芽の黒色と黄色の色素パターンとは無関係に, 特定の羽毛芽中の真皮層で一過的にその発現が観察された.一方, 腹部では全ての羽毛芽の真皮層でその発現が見られた.腹部の羽毛芽では色素の合成が見られないことから , ウズラのAPは色素合成の黒色, 黄色の切り替えではなくむしろ, 色素合成のオン・オフを制御していることが示唆された.また, 羽毛芽以外にも様々な部位でその発現が認められたことから, 鳥類(ウズラ)においてAPは, 色素合成の制御のみならず様々な発生現象の制御に働いていることが示唆された.


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