○松崎 貴 和田 厚子 香山 尚子 猪原 節之介
島根大・生物資源・生物
胚体表面は最初, 一層の外胚葉性上皮によって覆われており, やがて重層すると最外層は周皮に, 内層は表皮に分化する。周皮細胞および表皮細胞の起源と分化過程を明らかにするために, LacZ遺伝子を組み込んだレトロウイルスを羊水中に注入して体表上皮細胞を標識し, 細胞系譜を追跡した。胚体を2% paraformaldehyde (PFA) で固定し, X- gal染色を行ってLacZ陽性細胞を確認した。固定時間が短いと表皮下層で陽性シグナルが検出できず, 長すぎるとシグナル強度が低下すること, 胚齢16.5日頃から表皮のバリア機能が急速に発達し, 固定時間を長くする必要があることが分かった。胚齢16.0日での2% PFAによる最適固定時間は, 胚を丸ごと固定する場合は3時間, 開腹して内臓を取り出した胚や単離した皮膚の場合は1.5時間であった。胚体上皮でのLacZ陽性細胞の出現 には, 隣り合った複数の基底細胞が陽性であるとともに周皮細胞および両者の間を埋める中間層の細胞がすべて陽 性の場合, 一個の基底細胞が陽性でその上方の中間層と周皮がともに陽性の場合, 一個の基底細胞が陽性でその上方の中間層も陽性だが周皮は陰性の場合など, いくつかのパターンが見られた。これらの結果から, 周皮を生み出す基底細胞と, 中間層すなわち表皮細胞を生み出す基底細胞とは, 起源を異にするものと考えられる。また, 生後1日, 4週, 11週の個体から皮膚を単離して, 界面活性剤を含む2% PFAで固定し, X-gal染色を行ったところ, LacZ陽性細胞は生後11週の個体でも確認された。陽性細胞は表皮のほか体毛毛包および頬髭毛包組織に見 られたことから, レトロウイルスの羊水への投与により, 表皮および毛包組織への外来遺伝子の導入ならびに長期発現が可能であることが分かった。
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