○丹羽 尚 林 茂生
理研・CDB・形態形成シグナル研究グループ
多くの動物種は、体幹部から突出した付属肢(外肢)の獲得と多様化によって様々な棲息環境への
適応を可能にしてきた。そのため、付属肢は動物の形態進化を考える上できわめて重要な形質である。しかし
、様々な付属肢の共通起源性、原型、さらに形態進化プロセスについては今だ議論されている。本研究では前
口動物の系統で生じた付属肢を対象に、その起源と形態的多様化をもたらす分子機構の解明を目的としてい
る。
前口動物には特徴的な2種類の付属肢:関節肢(節足動物)と多分岐する無関節肢(環形動物)が知られ、いず
れもその形態は著しく多様化する。そこでこれらの2種類の付属肢の共通起源性を明らかにするために、まず
は筋肉系の比較解析を行った。解析にはゴカイ類(環形動物)、イシノミ類(原始無翅昆虫)、カゲロウ類(原始有
翅昆虫)を用いた。解剖学的、組織学的解析の結果、ゴカイ類の付属肢は合計13本の筋肉によって動きが制御
されていることが明らかになった。このうちの9本は、イシノミ類の付属肢にも相同なものが存在し、それらの遠
近軸方向の走行パターンの類似性から、ゴカイ類の付属肢の大部分は、昆虫類付属肢における体壁由来の節
(基節)に相当すると考えられた。この両者に酷似する筋肉系は、ゴカイ類と昆虫類の一見全く形態の異なる付
属肢が共通の起源から生じた可能性を示唆する。
また、ゴカイ類とイシノミ類の両者とも、付属肢の背部に感覚器官を備えており、それらはいずれも類似する2
本の筋肉で制御されていた。さらに同様な2本の直接筋は、昆虫類において付属肢起源と考えられている「翅(
飛翔器官)」、さらにカゲロウ類幼虫の「気管鰓(呼吸器官)」からも見い出すことができた。以上の結果から、我
々は前口動物の付属肢の原型にはすでに背部に可動する器官を備える能力があり、その背部可動器官が昆
虫類の進化過程で形態的、機能的に多様化してきたとの仮説を考えている。
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