○丹羽 仁史
理研 発生再生研 多能性幹細胞
マウスES細胞は、通常の培養条件においては、栄養外胚葉に分化することは殆どないが、転写 因子Oct- 3/4の発現を抑制することにより、100%栄養外胚葉に分化する。この分化誘導をFGF4存在下にfeeder cell上で行うと、trophoblast stem cell (TS細胞)が得られ、さらにそこからFGF4ないしはfeeder cellのいずれかを除去することにより、胎盤系の細胞の分化が誘導される。我々はこのシステムを用いて、栄 養外胚葉の分化に関わる転写因子の機能解析を行い、次のことを明らかにした。 (1) ES細胞におけるCdx- 2の強制発現は栄養外胚葉への分化を誘導する。 (2) Cdx-2を破壊したES細胞も、Oct- 3/4発現抑制により栄養外胚葉へと分化する。 (3) Cdx- 2を破壊したES細胞は、TS細胞に分化誘導すると、自己複製できずに全て終末分化に向かう。 (4) TS細胞でCdx-2の発現を抑制すると、終末分化に向かう。 (5) TS細胞でCdx- 2の発現を持続させても、FGF4ないしはfeeder cellの除去により誘導される終末分化を阻止できない。 これらの結果は、Cdx- 2の機能が栄養外胚葉の分化に十分であるが必要ではないこと、またTS細胞の自己複製に必要であるが十分 ではないことを示している。我々は現在、このパズルを解き明かすべく、他の転写因子の機能解析も進めてい る。
Page Copyright (C) 日本発生生物学会 All Rights Reserved.