○小幡 麻友 古丸 明
三重大・生資 ・水産生物
多くの動物種においてミトコンドリア(以下mtと略)は母系遺伝であり、父親のmtは初期発生過程 において選択的に消去される。しかし二枚貝のmtは両性遺伝することが知られており、これをDUI(Doubly Uniparental Inheritance)という。DUIでは、雌には卵のmtのみが伝達され、精子のmtは排除される。しかし雄の場合、体細 胞には卵のmtが伝わるのに対して、精巣には精子のmtが伝達される。 DUIの様なmtの伝達様式が成り立つためには、・精子のmtが選択的に増殖すること、・精子由来のmtが精原細 胞に存在することが必要である。しかし、この二つの要因に関しては全く分かっていない。そこで本研究では、 ムラサキイガイにおいて精子mtをミトトラッカーで選択的に染色した後に人工受精を行って、受精卵の発生過 程における精子mtの局在を調べた。 受精直後、ほとんどの雄性前核は植物極側の卵表層付近に位置しており、5個の精子mtは一カ所にまとまって 雄性前核と同じ位置に存在しているのが観察された。その後雄性前核が膨潤すると、それに伴い精子mtの分 布は卵表層で多少広がった。しかし雄性前核の大きさ以上に分散することはなかった。2細胞期には、ほとん どの卵において精子mtは卵割面に局在した。しかし、一部の卵では2細胞期までに精子mtが分散し、各割球 の細胞質内に散らばっていた。4細胞期になるとほとんどの精子mtが、A割球とD割球の卵割面付近、もしくは B割球とD割球の卵割面付近に観察された。4細胞以降になると精子mtは分散していった。 以上の結果から、精子mtの卵内での位置には一定の傾向が観察されたが、特定の割球に分布するとは限らな いことが分かった。
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