○溝口 貴正 黒岩 厚 菊池 裕
名大・院理・生命理学
脊椎動物の初期発生において、原腸陥入に伴う三胚葉形成機構の解明は重要な研究課題の一
つである。外胚葉・中胚葉と比較して解析が遅れていた内胚葉形成機構は、ゼブラフィッシュ突然変異体の解
析によって徐々に明らかにされてきた。ゼブラフィッシュにおける内胚葉形成は2種類のNodal因子と、その下
流で機能するMix型転写制御因子, Gata5転写制御因子,
SOX型転写制御因子(Casanova)が重要な働きをしていることを、我々を含めた研究グループが報告を行った。
最近内胚葉形成に異常を示す新たな突然変異体としてspiel-ohne-
grenzen(spg)が分離され、その責任遺伝子はPOUファミリー転写制御遺伝子pou2であるこ
とが報告された。spg変異体では初期内胚葉マーカー遺伝子であるsox17の発現が原腸陥入後
期において消失することから、Spg/Pou2も内胚葉形成に関与していることが示唆された。我々は内胚葉形成
におけるSpg/Pou2の機能を明らかにするため、アンチセンスmorpholinoオリゴ(MO)による母性・胚性spg/p
ou2の翻訳阻害を試みた。その結果MO注入胚ではsox17の発現誘導が起こらないことが明らかとな
った。またMO注入胚に、sox17の発現誘導に必要十分であると予想されたSOX型転写因子Casanova(C
as)のmRNAを過剰発現させてもsox17の発現誘導は起こらなかった。この結果からCasによるsox17の発現誘導にはSpg/Pou2を必要とすることが明らかとなった。さらにsox17のプロモーター領域に
はSOX型転写因子とPOUファミリー転写因子の推定結合配列が隣接して存在していることから、CasとSpg/Po
u2が直接sox17の転写を制御している可能性が示唆された。そこでsox17のプロモーター領域を
用いたルシフェラーゼアッセイ実験によるsox17の転写制御の解析を行った結果、CasとSpg/Pou2は協
調的にsox17の発現を制御していることが明らかになった。
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