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マウス胚の前後軸決定機構におけるWntシグナルの役割


木村(吉田) 千春  松尾 勲

理研・CDB・ボディプラン研究グループ・ヘッドオーガナイザープロジェクト


マウス胚では、前後軸決定に関して2つのシグナリングセンターが存在していると考えられてい る。頭部の形成には前方臓側内胚葉が、また体幹部の形成には原条・ノードと言われる組織がそれぞれ関与 していると考えられている。さらに、これら組織で発現するマーカー遺伝子のパターンから、着床直後の5.5日 目胚には遠位・近位軸の方向に沿って前後軸が形成され、その後、最も遠位の臓側内胚葉の細胞が一方へと 移動し、また近位外胚葉で発現するマーカー遺伝子は後方へシフトし前後軸が決定される。つまりマウス胚で は、最初、遠近位軸が存在しており、遠位臓側内胚葉の移動に伴い前後軸へと「軸回転」が起こると考えられ ている。しかしながらこの軸回転が、どのような分子機構で行われているか明らかにされていない。 Otx2ホメオボックス遺伝子は、そのホモ変異マウス胚では原条形成時期に軸回転の異常が見られ、将 来の前後軸が決定されない。また、このOtx2遺伝子ホモ欠損マウス胚では、Wntシグナルに対して抑制 的に働くdickkopf1(mdkk1)遺伝子の臓側内胚葉における発現が消失している(Kimura et al. 2000: 2001)。これらの知見から、マウス胚では原条時期における軸回転にWntシグナルが関与していることが考えら れる。そこで、Otx2遺伝子座にmdkk1遺伝子をノックインして、これらOtx2ホモ欠損マウス で見られる表現型が回復するかどうか検討を行った。以上の結果をふまえ、マウス胚における前後軸決定の 分子機構について考察する。


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