[1P135]

頭索動物ナメクジウオの2つのクラシックカドヘリン: 脊索動物の初期進化を知る手がかり


小田 広樹1  秋山-小田 康子1,2  Shicui Zhang3

JT生命誌研究館1,科技団、さきがけ2,青島海洋大3


クラシックカドヘリン (ここでは単にカドヘリンと呼ぶ) は多細胞動物の形態形成に重要な役割を果たす細胞間結合分子である。昨年度私たちは、頭索動物ナメクジ ウオ(Branchiostoma belcheri) や半索動物ギボシムシのカドヘリンを報告し、脊椎動物、尾索動物、頭索動物、無脊索動物のカドヘリンの構 造的関係から、頭索動物が最も原始的な脊索動物である可能性を提示した。しかしながら、頭索動物から得ら れている遺伝情報が極めて少ない現状で、その系統関係を結論づけることはできない。そこで私たちはB. belcheriのカドヘリンをさらに探索し、昨年度報告したものの他に、もうひとつ別のカドヘリンを発見したの で報告する。2つのナメクジウオカドヘリンは非常によく似た構造をしており、Bb1-カドヘリン (Bb1C)、Bb2- カドヘリン (Bb2C) と命名した。細胞質領域のアミノ酸配列を用いた分子系統解析では、Bb1CとBb2Cは比較的最近の遺伝子重複 によってできた分子であることが支持された。ショウジョウバエのS2細胞への遺伝子導入実験では、Bb1CとBb 2Cはいずれもカルシウムイオン非依存性の接着活性を有し、それぞれ異なる特異性を示すことが明らかにな った。そしてさらに発現を抗体染色によって調べたところ、初期神経胚においてBb1Cは表皮性外胚葉と神経性 外胚葉で発現し、Bb2Cは中内胚葉で発現していた。その後の発生では、Bb1CとBb2Cはそれぞれ神経系と腸 で比較的強い発現が続いた。神経胚期に中内胚葉から分化する脊索では、形態形成とともに背側の細胞でBb 2Cの発現が強くなり、残りの脊索細胞ではBb1Cの発現が新たに始まった。私たちの結果は、カドヘリンが脊椎 動物の系統と頭索動物の系統で独立に遺伝子重複し、組織または細胞特異的な発現を獲得したことを示唆し た。


Page Copyright (C) 日本発生生物学会 All Rights Reserved.