○和田 洋
京大・院理・瀬戸臨海
神経冠細胞の起源となった細胞がホヤやナメクジウオの表皮と神経管の境界に存在した可能性 が示唆されている (Wada 2001 Dev. Growth Differ. 43, 509- 520)。だとすると神経冠の進化は、全く新しい細胞タイプが生み出されたのではなく、起源細胞が移動能や前 後軸に沿った位置価といった性質を新たに獲得したことであると考えられる。ここでは、前後軸に沿った位置 価の獲得がどのような分子的な背景を伴って進化してきたかを明らかにすることを目指した。神経冠の前後軸 に沿った位置価はHox遺伝子の発現としてコードされており、前後軸に沿った位置価の進化には、Hox遺伝子 が新たな発現を神経冠で獲得したことが鍵であるといえる。そこで、この新しい発現獲得の分子機構の解析を 試みた。 すでにナメクジウオのHox1遺伝子の3ユ側には、脊椎動物に導入すると神経管と神経冠で発現を活性化する シスエレメントが含まれていることを報告している(Manzanarez et al. 2000 Nature 408, 854- 857)。また、この神経系での発現はロンボメア6/7境界から後方に限局されていた。そこで、この発現に関する シスエレメントを同定し、神経管と神経冠それぞれでの発現に関しての活性が分離できるのかについて検討し た。 ナメクジウオHox1の3ユ側約2.7kbのなかには7つのレチノイン酸応答エレメントのコンセンサス配列が認めら れたが、5ユ側からの欠失、3ユ側からの欠失によって活性を絞り込んでいくと、一つのレチノイン酸応答エレメ ント(二つのレチノイン酸レセプター結合配列が5塩基のギャップを挟んでいるエレメント:DR5)で神経管と神 経冠での活性が担われていることがわかった。さらに、このDR5を二つつないだものだけでも、神経管と神経 冠での発現を活性化するのに十分であることもわかった。以上の結果から、脊椎動物のHox遺伝子がどのよう にして神経冠での新しい発現を獲得したかについて考察し、報告する。
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