○高野 和儀1 小笠原 道生1 海保 愛1 孫 ぽん1,3 阿部 智行1 渡邊 晴子1 佐藤 矩行2 遠藤 剛1,3
千葉大・理・生物1,京都大・院理・動物2,CREST, JST3
哺乳類の Ras ファミリーは 15 あまりのメンバーから成っている.これらのうち classical Ras (H-Ras, K-Ras, N-Ras) は細胞増殖, 癌化, 細胞分化などさまざまな細胞機能に関与していることが知られているが, 他の多くのメンバーについては解析が十分に行われていない.また哺乳類以外の Ras ファミリーについてもほとんど明らかにされておらず, 後生動物の Ras ファミリーの基本的な機能は不明である.そこでまずデータベースを利用して, ホヤを中心にさまざまな動物群の Ras ファミリー相同遺伝子を同定し, 分子系統学的解析を行った.カタユウレイボヤとマボヤには M-Ras, Tc21/R-Ras, Rap1, Rap2, Ral, Rheb の相同遺伝子がそれぞれ一つずつ存在していたが, classical Ras 相同遺伝子はいずれのデータベースにも含まれていなかった.C. elegans やゼブラフィッシュには classical Ras 相同遺伝子が存在することを考えると, ホヤにおいてこの相同遺伝子が見いだされなかったことは興味深い.一方, 当研究室で同定した M-Ras の相同遺伝子は C. elegans から哺乳類に至るまで一遺伝子のみが orthologue として存在し, 独自のサブファミリーを形成することが明らかになった.次に, in situ hybridization によって M-Ras の発現解析を行った.マウス M-Ras は 11.5 日胚では前脳と神経管に高い発現がみられ, 成体では脳の海馬と小脳に特異的に発現していた.またカタユウレイボヤ M-Ras (CiM-Ras) は後期幼若体から成体にかけて神経複合体に顕著な発現がみられた.そこで C. elegans の M-Ras 相同遺伝子 Ras2 (CeM-Ras), カタユウレイボヤ CiM-Ras, およびマウス M-Ras をラット PC12 細胞に発現させたところ, いずれによっても神経突起形成が誘導された.以上の結果から, 無脊椎動物から哺乳類に至るまで M-Ras とその orthologue は神経形成に関与していると考えられる.
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