○宮脇 克行 張 紅杰 三戸 太郎 新明 洋平 更科 功 大内 淑代 野地 澄晴
徳島大・工・生物工
昆虫の初期の胚発生過程において、長胚型昆虫であるショウジョウバエではBicoidがA/P軸形成 に重要な役割を果たしている。しかしながら、短胚および中胚型昆虫において Bicoidホモログの存在はまだ報告されていない。1960年代からのSeidelやVollmarらの実験より、それらの胚発 生には胚帯のposterior領域が重要な役割を果たしている可能性が考えられていた。最近、ヒドラにおいて、Wn tとTcfが頭部オーガナイザーと考えられる領域に発現しており、Wntシグナルが初期の軸形成に関与している 可能性が報告された。Wnt/winglessファミリーは、いろいろな動物に共通して、多くの組織の軸形成において重 要な役割を果たしている。コオロギの初期胚において、wgはまず胚帯のposterior領域に強く発現し、次 にanterior領域にスポット状に発現する。また、armadillo (arm)タンパクはwg発現領域とさらにanterior側に少し広がって発現しているように観察された。そこで、 Wntシグナルが初期の胚発生に重要な役割を果たしている可能性が考えられたので、RNAi法を用いてarmのloss-of-functionの解析を試みた。 その結果、主にセグメント形成に影響がみられ、T3から腹部全体という胚帯の約半分のセグメントが欠損した ものと、さらに顎部と胸部のセグメントまでもが欠損したものがあった。前者のphenotypeでは、頭部からT2に かけての影響はほとんどなく、T3から後部のセグメントが融合しているように観察された。その融合したセグメ ントにおいて、腹部のマーカーであるabd- Aは発現していなかった。後者のphenotypeでは、頭部および尾部の形態にも影響があることがわかった。 これらの結果より、armを介したWntシグナルが、初期胚のセグメント形成に重要な役割を果たしていることが 示された。
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