○秋山-小田 康子1,2 小田 広樹2
科技団・さきがけ1,JT生命誌研究館2
動物の初期発生で起こる前後・背腹の軸形成は、対称なものから非対称なものを作り出す現象で あると捉えることもできる。ショウジョウバエでは卵が生み出された時に既に前後・背腹の形態的、分子的な非 対称性が生じている。しかし同じ節足動物に属する鋏角類のクモやカブトガニでは、おそらくは細胞間のコミュ ニケーションを通して、形態的に対称な卵から非対称な胚帯が形成されることが古典的な移植や除去実験に より示されている。私達はオオヒメグモを用いて体軸形成のメカニズムを解析した。クモ胚ではまず胚盤という 円盤状の上皮シートが球状の卵黄塊の半球を覆うように形成される。続いてクムルスという膨らみが胚盤の中 心から縁へと一方向に移動することによって円盤に非対称性が生じ、クムルスが移動したところを背側、胚盤 の中心であったところを後極、クムルスの到達点の反対側を前極とする前後・背腹の軸を持つ胚帯が形成され る。これまでの解析でクムルスの膨らみには8個程の間充織細胞(クムルス間充織細胞:CM細胞)が存在し、こ の細胞がdpp遺伝子を発現することを示した。今回の観察からCM細胞は胚盤の中心付近に存在する上 皮細胞が原口から陥入することによって生じた細胞で、βカテニンが濃縮した接着構造により束ねられたまま 上皮シートのbasal側を移動することが明らかになった。そしてリン酸化Mad蛋白質の分布から、CM細胞は移動 中に上皮細胞へDppシグナルを送り、胚盤の中心から縁に向かって順々に背側を誘導することが分かった。一 方、Dppのantagonistとして知られるsog (chordin)は胚盤上ではじめ環状に発現したが、CM細胞の影響によってMadがリン酸化された領域で局 所的に発現がなくなり非対称なパターンになった。このことはdppを発現するCM細胞の移動の非対称性 がsogの発現の非対称性よりも上位にある可能性を示唆している。
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