○三瀬 名丹1 清澤 秀孔1 多田 高2 阿部 訓也1
理研・BRC・動物変異1,京大・再生研・発生分化2
マウス胚性幹(ES)細胞は内部細胞塊(ICM)から樹立され、ICMに似た性質を持ち、マウス初期胚 のモデルとして広く用いられている。一方、胚性生殖(EG)細胞は、ES細胞同様に未分化な多分化能を持つ幹 細胞だが、いったん生殖系列の細胞へと分化をはじめた始原生殖細胞(PGC)から樹立され、PGCの性質を引 き継いでいると考えられる。ES細胞とEG細胞は形態的にも発生能の面でも非常によく似ているが、ES細胞と 体細胞を細胞融合した場合、体細胞由来のゲノムのIgf2rとH19のメチル化インプリントが維持さ れるのに対して、12.5日目胚のPGC由来のEG細胞と体細胞の融合細胞ではIgf2rのインプリントマーク が消去されており[1, 2]、体細胞ゲノムを再プログラム化する能力に違いがある。しかし、両者の遺伝子レベルでの詳細な比較はま だなされていない。そこで、これら二種類の幹細胞の違いを明らかにするために、ES細胞とEG細胞の遺伝子 発現プロファイルを、マイクロアレイを用いて網羅的に比較した。これまでに、我々の持つPGC特異的ESTセッ トから設計されたカスタムアレイ等を用い、約28,000の遺伝子について、ES細胞、EG細胞と精巣における遺伝 子発現を定量的に比較した結果を得た。ES細胞とEG細胞の間では、93%の遺伝子が同程度発現していたが、 精巣と比較した場合にはどちらの幹細胞も70%程度の遺伝子発現が共通しているだけであり、遺伝子発現に おいても両者は非常によく似ていた。ES細胞特異的に発現する遺伝子は全体の6%、EG細胞に特異的なもの は1.2%で、この遺伝子発現の違いが両者の性質の違いを規定していると考えられる。 1. Tada M. et al., EMBO J. 1997, 16:6510. 2. Tada M. et al., Curr Biol. 2001, 2:1553.
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