○小川 和也 大塚 哲 丹羽 仁史
理研・発生・再生研・多能性幹細胞
マウスES細胞は、通常、LIF,ウシ胎児血清及び、フィーダー細胞存在下で、多能性を維持したまま
培養されている。幹細胞の自己複製を支えている
“分化の抑制”と“増殖の促進”の二つの現象のうち、“分化の抑制”についてはLIFがその大部分を担っている
ことが知られている。しかしながら、増殖に関わる因子となると血清及び、フィーダーに寄与するところが大きく
、その実体はまるで分かっていない。我々は、LIF存在下,
フィーダー及び血清非存在下でES細胞を培養できる条件を検討することにより、増殖に関わる因子の同定を
目指すことにした。
まず、血清の代わりに、増殖因子としてはinsulin, transferrinのみを含んだKSR
(Invitrogen社製)
を用いることにより、実際にES細胞がフィーダー非存在下で単一細胞レベルから増殖するかを検討した。その
結果、GMEM+ 10 % KSR + LIF (以下KSR培地とする)
のみでは増殖を維持出来なかったが、細胞密度の高い条件でES細胞を3日間培養したKSR培地を10
%加えた場合には増殖を維持出来ることを見出した。このことから、ES細胞自身が自己に対する増殖因子を分
泌しているものと考えられた。更に、ペプチドライブラリーのスクリーニングを行い同様の増殖活性を持つ因子
を探索した結果、増殖活性は弱いもののACTH(1-24), PACAP(1-27), BNP(1-
32)をその候補として得ることに成功した。これらの結果から、KSRに含まれるinsulin,
transferrin、上記したペプチド及びLIFが、ES細胞が単一細胞レベルから自己複製を維持するための最小増殖
因子ユニットであると考えられた。現在、これらのペプチドが生理学的にES細胞の自己増殖因子であるかどう
かを検討中である。
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