○大塚 哲 小川 和也 丹羽 仁史
理研・発生再生研・多能性幹細胞
ES細胞は初期胚由来の多能性幹細胞株で、ノックアウトマウスなどに応用されてからは、発生工
学には不可欠になっている。近年、ヒトES細胞樹立以降は、再生医学の分野でも注目を集め続けている。我々
は、これまでES細胞の性質を厳密に分子レベルで定義すべく詳細に検討を進めており、その一環としてその樹
立過程を詳細に検討することで、ES細胞の性質の一端を明らかにできると考えている。マウス胚盤胞より新た
にES細胞株を樹立するシステムの開発と平行し数十個の未分化細胞集団で構成される内部細胞塊(ICM)のE
S化過程の解析を行った。
最近我々はfeederおよびserum-
freeの『完全無血清ES細胞培養法(無血清培養)』の開発に成功し、未分化状態の維持を促進することを解明し
ている。
さらに、この無血清培養法の応用によりES細胞株の樹立を行ったところ、従来のfeederおよび血
清存在下でのICMのES化に比べ、無血清条件下ではICMはより高率にES化されることを見いだした。Blastocy
stの免疫手術により精製後、ICM約10個程度をまとめてES細胞の樹立を行うと大半のICM由来ES化コロニー
が観察されたにも関わらず、単一のBlastocyst由来のICMを培養した場合、ES化の顕著な減少が観察された。
このことは、ES化過程でのICMによる自己産生性因子の重要性を示唆している。また、いくつかのノックアウト
マウスの解析報告では“内部細胞塊の未分化維持の破綻”が原因となり、胚性致死とされているものがある。
現在、これらの結果を踏まえた上で、ICMの未分化維持機構の破綻という表現系と我々の想定するES化過程
で重要と思われる因子との関連性を詳細に検討しており、我々の用いているES細胞株樹立の方法と併せて報
告したい。
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