○岡本 武人1 金尾 智子1 宮地 幸久2 野原 功全1,2
国際医療福祉大・院医療福祉・保健医療1,国際医療福祉大・保健・放射線2
従来、放射線は「どんなに微量であっても有害である」と考えられてきた。しかし、近年、低線量(0. 2Gy以下)の放射線を照射すると、マウスの寿命がのびたり、免疫機能が亢進するなど、高線量域の応答関係 からは予想できないような生体刺激作用が存在することがわかってきた。その放射線効果を、イモリの水晶体 再生を指標に調べてみた。方法として、アカハライモリを麻酔し、その後、虹彩組織を傷つけないように注意し 水晶体を摘出した。照射は、術後3日目に0.42Gy/minの条件で、0.2、0.4Gy照射した。その後4日目、11日目に、 再生過程を観察するために眼球を取り出し、ホルマリンで固定し組織切片標本にした。 0.2Gyの照射後、11日目の組織切片を調べたところ、対照群では、水晶体胞が形成されている段階(Beyer 1954, regeneration stage II)に対して、0.2Gy照射群では、すでに水晶体線維形成(stage III)へと分化が始まっており、明らかに再生が速くなっていることがわかった。また、この再生促進効果は脾臓を 含めた上腹部だけの照射においても観察できた。しかし、実験の順序を逆にし、照射してから水晶体を摘出し たときには、再生促進効果は見られなかった。 また、線量を0.4Gyまで上げるとこの効果は消失した。一般に放射線の生体影響は、「線量増加に伴って大きく なる」と考えられている。本研究での結果は、低線量域のみに影響が見られるという従来の考え方とは異なる 現象であった。
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