○村上 安則1 内田 勝久1 小笠原 道生2 平野 茂樹3 倉谷 滋1
理研・CDB・形態進化1,千葉大・理・生物2,新潟大・医・保健3
脊椎動物の終脳は感覚情報を統合し、運動出力を制御する高次中枢であり、鳥類や哺乳類 で高度に発達している。これら動物の終脳は、形態学的には外套、ならびに外套下部と呼ばれる領域に 分けられ、外套はさらに内側外套、背側外套、外側外套、腹側外套に細分され、そのパターンは発生上 発現する制御遺伝子群の発現パターンとよく対応している。哺乳類では外套から終脳皮質や嗅覚皮質が 発生する。一方、外套下部の外側神経節隆起(Lateral ganglionic eminence: LGE)からは線条体が、内側神経節隆起(Medial ganglionic eminence: MGE)からは淡蒼球が発生する。哺乳類や鳥類のMGEはGABA作動性の神経細胞を産生し、それらの細 胞は終脳背側部まで移動し、介在神経として脳機能を調節することがわかっている。このような機構はい かにして進化してきたのか?それを知る目的で、本研究では、無顎類ヤツメウナギの終脳の形態形成プ ランを解析し、顎口類のものと比較を行った。ヤツメウナギPax6、Emxの発現パターンは顎 口類で見られるものと類似しており、このことから脊椎動物の外套をつくる神経発生プログラムは、無顎 類と顎口類の共通祖先にすでに存在していたと考えられる。しかし、ヤツメウナギの終脳腹側部では、Nkx2.1は発現せず、またSHHの発現も見られない。Nkx2.1の遺伝子欠損マウスには MGEが発生しないことから、ヤツメウナギの終脳にはそもそもMGEが欠けていることが示唆される。ヤツ メウナギの外套にはGABAニューロンも見られない。つまり、顎口類の系統でMGEをつくる神経形成機構 が新たに獲得されたと考えられる。このことが、淡蒼球や移動性のGABAニューロンを生み出し、顎口類 の終脳に多様性をもたらしたのかもしれない。
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