○瀧尾 陽子1,2 村上 安則1 工楽 樹洋1,3 Massimo Pasqualetti4 Filippo M. Rijli4 倉谷 滋1
理研CDB・形態進化1,神戸大院自然科学2,京都大院理・生物物理3,IGBMC CNRS/INSRM/ULP, Colle ge de France4
脊椎動物の頭部Hoxコードとして知られるパターンとは、菱脳に生じる分節(ロンボメ ア)および咽頭弓内の神経堤細胞に対応した、次のようなパターンを示す。すなわち、r1, 2および第1咽頭弓にはHox遺伝子の発現がなく、r3および第2咽頭弓以降にHox2パラログ グループが、r5および第3咽頭弓以降にHox3パラロググループが、r7および第4咽頭弓以降に Hox4パラロググループが発現する入れ子式のパターンである。一方、ナメクジウオにロンボメアが 存在せず、咽頭弓におけるHox遺伝子発現がないことから、顎口類の頭部Hoxコードは脊 椎動物の進化過程において成立したことがわかる。すると、脊椎動物進化の初期に分岐した円口類・ヤ ツメウナギのHox遺伝子発現がHoxコード成立の謎を解く鍵となる。本研究では、日本産カ ワヤツメ(Lethenteron japonicum)の頭部に発現するHox遺伝子(LjHox遺伝子)を10種単離した。その結果、 神経管における発現に空間的コリニアリティーは存在するが、ロンボメアとHoxの発現の前方境 界が一致せず(村上らによる)、両者の関係は脊椎動物進化の初期にはまだ希薄である可能性が示唆さ れた。また咽頭弓における組織的解析の結果LjHox2(共同研究者による)およびLjHox3d はそれぞれ第2, 3咽頭弓以降の神経堤細胞に発現し、顎口類のものと一致しているが、LjHox4h, -5i, -6k, -8qは第8咽頭内胚葉にのみに発現することが確認された。このことから第1, 2咽頭弓におけるHoxコードは脊椎動物進化の初期の段階にすでに成立していたが、それ以降の 咽頭弓のHox発現はヤツメウナギの段階ではまだ成立しておらず、顎口類の系統で二次的に獲 得された可能性が示唆された。
Page Copyright (C) 日本発生生物学会 All Rights Reserved.