松沢 寛紀1 濃野 勉2 ○八杉 貞雄1
都立大・院理・生物科学1,川崎医科大・分子生物2
ニワトリ胚の気管原基は孵卵2.5日頃, 消化管咽頭部の腹側で, 上皮が間充織中に膨出することで形成される。ついで肺原基がその後方に形成され, 急速に分枝して気管支と肺を形成する。このような気管と肺(以下肺とする)原基の形成に関してはこれまで実験発生学的な知見が乏しかった。我々はまず, 原基膨出が間充織の影響によるものかどうかを検討するために, 上皮と間充織の再結合片を培養し, 上皮における肺上皮特異的マーカー遺伝子(Nkx2.1)消化管上皮マーカー遺伝子(sonic hedgehog, shh)の発現を調べた。その結果, 腹側間充織のみが上皮にNkx2.1の発現を誘導すること, 背側上皮も腹側間充織の影響下にshhの発現を低下させてNkx2.1 を発現すること, 予定胃上皮は腹側間充織の誘導作用に反応しないこと, などを見いだした。ついで, 原基膨出の前後におけるいくつかの成長因子遺伝子の発現パターンを調べ, Wnt11とBMP4が原基出現部位の腹側で特異的に発現することを明らかにした。また培養片においてもWnt11発現間充織と上皮におけるNkx2.1の発現が密接に関係していることから, Wnt11が肺原基膨出に関与するのではないかと考え, Wnt11を背側間充織で強制発現させ, 上皮と再結合して培養したところ, Wnt11発現間充織は上皮にNkx2.1の発現を誘導した。以上の結果は, 肺原基の形成には腹側間充織の作用が必須であり, その少なくとも一部はWnt11が担っていることを強く示唆している。
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