○信定 福明1, 堀米 直人1, 平野 茂樹2, 倉谷 滋1
岡山大・理・進化発生1, 新潟大・医・解剖2
噛み付くことのできる「顎」を作り出し、現在の繁栄を築きあげた顎口類の口の形態は、顎骨弓の神経堤細胞に依存している。これに対し、ヤツメウナギに代表される無顎類は、上唇、下唇および縁膜といった濾食のための口を獲得した。顎口類の上下顎と無顎類に見られる上下唇 とは発生のごく初期において外見上良く似ているが、これはそもそも比較可能なのだろうか。我々はこの問題を確かめるために、無顎類脊椎動物ヤツメウナギの一種カワヤツメ(Lampetra japonica)胚を用いて、走査電子顕微鏡で胚発生を詳しく観察することにより、以下のことを示した。頬状突起と呼ばれる膨らみがステージ22周辺で起こり、口腔の前後において分断するようにくびれを生じた後、その前端部分である1対の隆起が口腔前方で交わる。口腔後方 の細胞塊には目立った動きはない。ステージ25以降で隆起およびその側面は顎前中胚葉を覆いながら口腔をおし広げるように前方へと伸長し、ヤツメウナギ特有である背側に鼻孔の空いたトンネル状の鼻をもつ上唇を形成していく。ステージを遡ってみると、上唇を作りだしたのは 頬状突起の前端部に当たることが分かった 。また、ここを満たすのは顎前領域の頭部神経堤細胞集団であり、顎骨弓由来ではなかった(頬状突起は顎骨弓と第1咽頭嚢からなるとされていた)。従って上唇は、顎口類における上顎ではなく、むしろ顎骨弓前方に広がる顎前領域由 来の形成物、例えば梁軟骨に当たると言える。つまり無顎類の上唇は、顎口類の「顎」と相同ではない。これを我々は、鼻プラコードと下垂体を含む初期の外胚葉上皮パターニングの違いに起因するのではないかと推論し、顎口類の「顎」は顎前領域と顎骨弓における上皮と間葉の 繰り返しが生じた結果、二次的に獲得されたと考えた。
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