○米井 小百合, 井出 宏之, 田村 宏治
東北大学・院理・生物
ニワトリ胚の側板中胚葉は発生初期には一層であるが、やがて背側の壁側側板と腹側の臓側側板の二層に分かれる。肢芽の間充織は壁側側板由来であるが、肢芽が形成される部域がそれぞれ決まるのは、側板中胚葉が二層に分かれる以前のことであることがこれまでの研究から示唆されている(本大会の斎藤らの発表を参照)。我々は、予定前肢・わき腹・後肢領域の部域化が壁側側板と臓側側板の分離以前に起こるのであれば、両中胚葉の部域化は同じ機構で起こるのではないか、と考え、それを検証するためにいくつかの実験を行った。まず、臓側側板を外胚葉と組み合わせると臓側側板が壁側側板の性質を持つようになること(Funayama et al.,1999)に着目し、ニワトリ胚の予定前肢・わき腹・後肢領域の臓側側板をそれぞれ単離し、宿主胚のわき腹の外胚葉直下に移植してそれぞれの移植片がどの部域の性質を持つかを調べた。その結果、予定前肢・後肢領域の臓側側板由来の移植片は前肢・後肢をそれぞれ形成した。また、予定わき腹領域の臓側側板からは過剰肢は形成されなかった。これらの結果は予定前肢から後肢レベルの臓側側板は、それに対応する壁側側板と同じ位置価を潜在的に保有していることを示唆する。また、Tbx遺伝子の発現解析もこれを支持した。次に、それぞれの肢芽のなかでの前後軸極性について、肢芽後端部のマーカー遺伝子であるshhの発現を指標に、同様の実験を行った。その結果、壁側側板と比べて臓側側板から形成される肢芽の前後軸極性は、移植片のもともとの前後軸と関係なくランダムに形成される傾向があることが判った。これは肢芽のなかの前後軸極性は側板中胚葉が二層に分かれてから形成されることを示唆する。これらの結果とさらにいくつかの実験結果から、側板中胚様の部域化と肢芽の前後軸極性の形成について考察したい。
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