江口吾朗・元発生生物学会長を偲ぶ

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江口吾朗・元発生生物学会長を偲ぶ

江口吾朗・元発生生物学会長を偲ぶ

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(日本の発生生物学会の二人の巨匠、江口吾朗(左)・岡田節人(右)の両元学会長、撮影: 阿形清和)

 江口さんは岡田節人氏とともに日本の発生生物学会、ひいては日本のサイエンス界を牽引した巨星だった。名大の院生時代に師匠の佐藤忠雄氏から<イモリのレンズ再生>を研究テーマとして与えられ、それを生涯の研究テーマとした(佐藤忠雄氏は留学先のドイツのシュペーマンから<イモリのレンズ再生>を研究テーマとしてもらった)。熊本大学の学長になってからもイモリのレンズの摘出手術を続け、1匹のイモリを30年以上18回にわたりレンズを再生させることに成功している。<イモリのレンズ再生>に生涯を賭けた成果と言える。
Regenerative capacity in newts is not altered by repeated regeneration and ageing.
Eguchi G, Eguchi Y, Nakamura K, Yadav MC, Millan JL, Tsonis PA.
Nat Commun. 2011 Jul 12;2:384.

しかし、多くの科学者は<黒い色素細胞>が<透明なレンズ細胞>になるはずがないと心の中で思っており、眼の虹彩にはレンズの種の細胞が潜んでいるに違いないと思っていた。そんな風潮を払拭したのが江口さんだった。京大時代に岡田節人氏と組んで、単一の色素上皮細胞から培養条件下でレンズ細胞になることを証明し、<色素上皮細胞のレンズ細胞への分化転換>は世界が着目する研究テーマへと変貌を遂げていく。
Differentiation of lens-like structures from newt iris epithelial cells in vitro.
Eguchi G, Abe SI, Watanabe K.
Proc Natl Acad Sci U S A. 1974 Dec;71(12):5052-6.

さらに、自然界では背側の虹彩上皮からしかレンズを再生しないのに、発がん物質処理や細胞培養によって、虹彩上皮の色素上皮細胞ならどの部分の細胞であってもレンズ細胞への分化転換能力をあることを示し、ひいてはニワトリやヒトであっても眼の色素上皮細胞はレンズ細胞へ分化転換能力を保持していることを示した。
A unique aged human retinal pigmented epithelial cell line useful for studying lens differentiation in vitro.
Tsonis PA, Jang W, Del Rio-Tsonis K, Eguchi G.
Int J Dev Biol. 2001 Sep;45(5-6):753-8.

江口さんの学会への貢献は、何と言っても、学会長だった時に、発生生物学会の学会誌DGDを商業出版へと転換することを決定し、DGDの赤字経営によって破産寸前だった学会をレスキューしたことだ。多分、多くの学会員はこの決定の重要性を認識していないと思うが、この江口会長の決定がなければ、DGDひいては発生生物学会そのものが存続されていなかった。<俺がDGDそして学会をレスキューした>、それは江口さんの口癖であった。

江口元会長のご冥福を祈りたい。

阿形清和(前発生生物学会会長、基礎生物学研究所・所長)