岡田節人基金 海外派遣報告書 岩﨑-横沢 佐和(JT 生命誌研究館)

CONFERENCE REPORTS

岡田節人基金 海外派遣報告書 岩﨑-横沢 佐和(JT 生命誌研究館)

岡田節人基金 海外派遣報告書 岩﨑-横沢 佐和(JT 生命誌研究館)

JT 生命誌研究館
岩﨑-横沢 佐和

 この度、岡田節人基金海外派遣助成を頂き、2017年3月15日から18日にかけてドイツのキールにて行われたJoint Meeting of the German and Japanese Societies of Developmental Biologists(日独発生生物学会合同ミーティング)に参加しました。キールはデンマークに程近いドイツ北部の都市で、バルト海に面しており、北欧との玄関口にもなっている美しい港街です。ミーティングでは日本とドイツをはじめアメリカやイギリス等10カ国以上から約230名が参加し、朝8時半から夜の6時まで会場での発表、その後9時半まで連日のソーシャルプログラムと実に密度の高いプログラムで、最先端の研究結果に活発な議論と交流が行われました。
 私が本ミーティングに参加した目的は、一つには、節足動物鋏角類のクモの発生研究が非常に面白く魅力的なテーマであるかを伝えることでした。もう一つは、実験発生生物学などの新しい学問分野を創出してきたドイツの風土を肌で感じるとともに、これからの発生生物学の動向を学ぶことでした。
 今回私は、学会初の試みであるe-Poster ( 従来の紙ポスターと異なりスクリーンに映るポスター)形式での発表に挑戦しました。e-Poster発表者には5分間の口頭発表が与えられます。短い時間ではありますが、私にとっては初めての国際学会での口頭発表でした。入念に準備を行い、その結果、発表は自信を持って行うことが出来ました。タイトルは「クモ初期胚の一部の細胞を用いたRNA-Seq解析による、体軸形成に関わる新規遺伝子の同定」です。クモの体軸形成機構がショウジョウバエと大きく異なること、解析技術を一歩進め、未知の体軸形成に関わる遺伝子を同定したことを報告しました。発表ツールの目新しさもあり、30名程の方々に聴いて頂くことが出来ました。また、同ポスターセッションにはハエ・トリボリウム・クモと各種の節足動物を用いた研究発表が集まっていたので、普段出会わない方々に発表を聴いて頂くことが出来たのではないか、その点では大きなメリットがあったと感じています。一方で、e-Posterの会場は紙ポスターの会場と少し距離があり、従来のようにポスターを眺めて歩きながらふと目に止まったポスターをじっくり見るという機会が失われており、デメリットも感じました。ポスター発表では、発表者がずっと立っていることが、対面でのコミュニケーションに繋がり、議論をもたらすのだとこの時改めて実感しました。
 また、一番の印象深い出来事は、特別講演でいらしていたノーベル賞受賞者のEric F. Wieschaus先生に私のポスターを見ていただいたことでした。身体から好奇心が溢れ出るようにお話しされる方でした。それに誘発されるように私も自然と熱く主張してしまいました。とても楽しく素晴らしい時間でした。ただ、最後に議論が深まってくると私の知識不足から言葉足らずになり、非常に悔しい思いもしました。今後より広い知識と自分の言葉を持ち、世界中の研究者ともっと研究について語りたいと、強く思いました。
 発表に関するもう一つの印象深い出来事は、日本から来ている先輩女性研究者の発表が素晴らしかった事でした。背景知識から問題提起へ、実験手法を簡潔に説明し、得られた結果から考察まで、その面白さや発見の興奮が伝わる発表にいくつも出会うことができました。懇親会で色々お話をする中で見えてきた、様々なハンデを乗り越えて輝く立ち姿に、憧れとともに目指すべき方向が掴めたような気がしています。
 研究発表に関して、私はこれまで「良い発表をしさえすれば伝わるだろう」と漠然と思っていました。でもそれは一方的な考えであったかもしれません。本当の意味で誰かに伝わるということは、深いところでのコミュニケーションなのだと、今回の一連の経験で気がつきました。お互いの研究を称え合えるだけの背景知識や寛容性を持たないとそれは達成できないように思いました。
 さて、もう一つの目的であったドイツの風土について、今回私が初めてドイツに渡航して受けた印象は、音楽などの芸術、発生生物学などの学問、つまり文化的な側面において後世に影響を与える優れた理論やモデルの提唱者が多いのではないかということでした。一つには、会期中のソーシャルプログラムの一つに、ニコライ堂でのパイプオルガンコンサートがあり、かの有名なバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」を聴いたことにあります。バッハは自身の築き上げた音楽理論に基づいて作曲を行い、西洋音楽の基礎を作った音楽家です。私はコンサートを聴きながらフーガの連続的なパターンの繰り返しと、パターンが次第に変化していく様に発生現象の美しさを思い浮かべていました。 二つ目はHans Meinhardt 先生を偲んだレクチャーを聞いたことによります。Alfred Gierer先生とHans Meinhardt先生は今から45年前にヒドラの再生現象におけるパターン形成の数理モデルを提唱しました。現象を詳細に記述することもとても重要な仕事ですが、理論やモデルの構築はその分野の発展に大きな推進力を与えるのかもしれないと感じました。
 発生生物学研究に携わってまだ間もない私ですが、本ミーティングでは、幹細胞や器官形成だけでなく、進化や数理モデルの研究者が幅広く集まり、現在発生研究者を魅了するトピックが凝縮されていると感じました。また、遺伝子の機能解析だけでなく、研究全体が細胞の動きや数理モデル化への方向性をより強めていることを実感しました。日本にいるだけでは掴みにくい、世界中の研究に触れることができました。また、どのような人たちが研究をしているのかを知ることができたのも大きな経験となりました。
  最後になりましたが、本ミーティングの参加に関してご支援いただきました日本発生生物学会関係者の皆様ならびに初代JT生命誌研究館館長でありました故岡田節人先生に心より感謝いたします。本当に貴重な経験をありがとうございました。