岡田節人基金 海外派遣助成報告書 武藤玲子(京大)

CONFERENCE REPORTS

岡田節人基金 海外派遣助成報告書 武藤玲子(京大)

岡田節人基金 海外派遣助成報告書 武藤玲子(京大)

 岡田節人基金Marine Biological Laboratory (MBL) Summer Course派遣助成を頂き誠にありがとうございます。2016年6月4日から7月17日にアメリカのウッズホールで開催されました、MBL Embryology course: Concepts and Techniques in Modern Developmental Biologyに参加しました。美しい海に囲まれたMBLを思い出すと、まるで夢であったかのようにさえ思います。
 私は名古屋に生まれ、旭川医科大学へ入学し2009年に医師となりました。その後3年間レジデントとして公立陶生病院で研修を行い、さらに3年間腎臓内科医として名古屋大学医学部付属病院と岐阜県立多治見病院で勤務しました。2014年に名古屋大学大学院医学研究科に入学し、発生や進化の考え方から医学を見たら新しいことがみえるのではないかと思うようになり、昨年4月より京都大学大学院理学研究科の高橋淑子研究室でお世話になっています。ニワトリやウズラを用いて始原生殖細胞(Primordial germ cell: PGC)が血管を移動し生殖巣に至る仕組み、PGCの移動に伴って血管のパターン形成が変わる仕組みを研究しています。私は今回のコースに三つの目的をもって参加しました。ひとつは多種多様な生き物の発生プロセスを学ぶこと、二つめは発生学の基本的な手技をもっと身につけること、三つめは国際的な参加者と日頃の研究について思う存分話し合うことです。
 6週間にわたり、月曜から土曜の午前中は講義、それにもとづくディスカッションを行い、午後は夜遅くまでさまざまな生き物を用いて実験を行いました。
 MBLでは毎週金曜の夜にノーベル賞受賞者を含む最先端の研究者がレクチャーをオープンに行い、コース参加者だけでなく、若者からお年寄りまでたくさんの人々がそこに集い楽しんでいるのを目の当たりにし、私が今まで知っているものとは異なる学問の土台を感じました。日曜は海で生き物の採集をしたり、ディレクターのRichard BehringerやAlejandro Sanchez Alvaradoのおうちでパーティーをしたり、ケープコッドでクジラを見たりと、まさによく学びよく遊んだ毎日でした。扱った生き物は、ウニ、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、プラナリア、ニワトリ、マウス、ホヤ、トカゲ、カメレオン、オポッサム、ヒドラ、クマムシ、クラゲ、ナメクジウオ、半策動物、軟体動物、環形動物などです。学んだ手技としては、免疫染色、軟骨染色、神経管やZPAやhypoblastの移植、細胞のアブレーション、エレクトロポレーション、CRISPR、コンフォーカルを用いたイメージング、マイクロCTを用いた形態解析、3Dプリンターを用いた発生モデルや道具の作成などです。
 特にアフリカツメガエルの講義と実習が印象的でした。Richard Harlandは原腸形成過程と分子メカニズムについて黒板に絵を描きながら説明し、さらに胚の扱い方や観察の方法について教えてくれました。John YoungはX. laevisとX. tropicalisのマイクロインジェクションのコツについて教えてくれました。さらにKeller explant/sandwichはこの手技を最初に行ったRay Keller本人より実演がありました。私は免疫を司るprimitive myeloid cellがどのように移動し、創傷に反応するかを観察しました。ステージ14でprimitive myeloid cellは胚の頭側にあるblood islandに集積していることから、頭側のmembrane GFP transgenicと尾側の通常胚をくっつけて観察しました。(Chen et al., 2009; Costa et al., 2008). 細胞移動のパターンは、primitive myeloid cellをラベルしたLurp-1 GFP transgenic においても観察し、タイムラプス画像を作成しました。Asako ShindoとChenbei Changがサポートしてくれました。また、これらの実験の中で、ステージ14で私のまつげを用いて胚を半分に切ると、胚がたとえ尾側だけであっても4日間成長し泳ぐことがわかり、とても驚きました。この尾側だけの胚の神経はどのように分布しているのか疑問に思い、6F11と acetylated tubulinを用いて免疫染色を行いました。これらのデータは、2週間に1回shown and tellというプレゼンテーションをする時間があり、仲間に助けられ英語でまとめ、発表することができました。
 今回のコースに参加し、発生や進化についての知識を深め、クラシカルな手技から最先端の実験方法について学ぶことができました。また世界中から集まった参加者と研究についてだけでなく文化や歴史について話し合うことでより深く相手を理解することができました。当初の三つの目的は達成でき、それ以上のものが得られたと思います。このコースでの経験を自分自身の研究にいかし、また出会った仲間とのつながりをこれからも大切にしていきたいです。このような貴重なコースに参加するチャンスを頂き、いつも応援してくださっている高橋淑子先生、丸山彰一先生、阿形清和先生をはじめ、高橋研のみなさま、日本発生生物学会のみなさま、そして岡田節人先生に心から感謝申し上げます。