岡田節人基金 海外派遣報告書 間瀬俊(理化学研究所BDR)

CONFERENCE REPORTS

岡田節人基金 海外派遣報告書 間瀬俊(理化学研究所BDR)

岡田節人基金 海外派遣報告書 間瀬俊(理化学研究所BDR)

理化学研究所生命機能科学研究センター
博士後期課程4回生
間瀬 俊

この度は岡田節人基金若手研究者海外派遣助成に採択いただき、2018年10月10~13日にドイツで行われた「日独合同若手ミーティング(JSDB-GfE young scientist exchange program)」に参加して参りました。このミーティングは、日本発生生物学会(JSDB)とドイツ発生生物学会(GfE)が今年新たに始動させたもので、互いの国の大学院生や若手研究者が交流する場を設け、将来にわたって日独の研究交流の場を充実させることを目指す、記念すべき第一回目の会でした。今年は日本から11名の若手が渡独し、来年2019年5月には、かわってドイツの大学院生・若手研究者を日本に招き、大阪で行われる日本発生生物学会の会期の前後に同様の合同若手ミーティングを行う予定だそうです。これから始まる、日独の学生が互いに相手国を行き来しながら研究交流をする、素晴らしい試みの第一歩に参加することができ、大変光栄な思いです。

今回の旅程は、ドイツ南部のチュービンゲンにあるMax-Planck Instituteで1-dayワークショップに参加し、次いでミュンヘン近くのGunzburgで行われる日独合同若手ミーティングに3日間参加するというものでした。

はじめに、フランクフルト空港での入国審査であった小話をします。入国審査官に目的地を聞かれ、チュービンゲンに行くのだと伝えると「To study?」と聞かれました。そんな感じだと答えましたが、ふと、このような質問をされるような、学術都市として広く認知されている場所が日本にもあるだろうかと思案しました。聞くところによるとチュービンゲンの人口9万人のうち3万人が学生で、先の大戦の戦禍を免れた伝統ある学術都市だそうです。近代的な研究都市である日本の「つくば」ともだいぶ趣が違いました。ドイツの学術の歴史の一端に触れた瞬間でした。

チュービンゲンのホテルに一泊したあと、日本からの参加者と顔合わせをしながら朝食をとり、1-dayワークショップへ向かいました。このワークショップはMax-Planck InstituteのPatrick Mullerグループリーダーのラボの皆さんの厚意で提供された研究体験コースで、3つのイベントを体験しました(ライトシート顕微鏡の体験、FRAP(光褪色後蛍光回復)の体験、ゼブラフィッシュの自動飼育施設見学)。これらの体験は全てPatrickのラボの大学院生が指南役となり教えてくれました。
 はじめにライトシート顕微鏡を使ってゼブラフィッシュの個体全体を高速でライブイメージングする手技を習い、サンプリングから撮影までを体験させてもらいました。サンプルの定位のために蛍光ビーズ入りのアガロースにサンプルを包埋し、自作したソフトウェアを使って4Dイメージを作成する流れを実際に教わり、私自身の研究にも応用できる着想を得ました。
 次にFRAP法で蛍光物質の拡散係数を求める実験を体験しました。使用したZeissの顕微鏡ソフトウェアにはFRAP実験用のモジュールが入っていますが、それは使わずに画像だけ取得し、Patrickラボで自作したソフトウェア(PyFRAP)を使用して詳細な解析をします(Blasle et al., Nat Commun., 2018)。メーカー提供のものに頼らず、必要なものは自作していく姿勢が伺えました。
 最後に歴史あるゼブラフィッシュの飼育施設を見学しました。このキャンパスには1980年代半ばに作られた、当時世界最大のゼブラフィッシュの飼育施設があります。この施設は1995年のノーベル 生理学・医学賞の受賞者の一人であるChristiane Nusslein-Volhardが主導して設立しました。ここで行われた大規模な変異体スクリーニングの成果は、1996年12月のDevelopment誌 Vol.123 に25本の論文を同時掲載するという偉業につながった歴史を知ることができました。今では施設規模がやや縮小されているものの、給餌のオートメーション化が進められており、餌の種類や量、タイミングなどをプログラムできるようになっていました。現在でもこの施設を有効に活用して新しい研究を進めている、過去から未来へ繋がる時代の流れを感じ取ることができました。
 夜はPatrickとPostdocのKatherine、上野直人先生、近藤滋先生、Canvas Alev先生、森本充先生と日本人参加者の一行で、木の香りのする素敵な居酒屋でディナーをいただきました。食べきれないほどたくさんのソーセージや名前のわからない料理たち(色は基本的に黄色か茶色)の乗った大皿を囲み、1Lのビールジョッキを片手に参加者それぞれの生い立ちの話から、「AIを作った人間が、その中身が理解できてないって何やねん」という学者らしい(?)話まで、「食事が終わってからも席を占拠してだらだらと話し続けるのがドイツの伝統だ」という嘘かホントかわからないジョークを聞きながら、楽しい夜が更けていきました。

翌朝はチュービンゲンのダウンタウンを現地ガイドに案内してもらいました。学術都市として発展してきた町の歴史を聞きながら、ハイライトは高台のホーエンチュービンゲン城内にある博物館で、チュービンゲン大学の生化学者であるJohannes Friedrich Miescherが1869年に豚の胃から核酸を初めて精製して命名(ヌクレイン)したことにまつわる展示を見学しました。自作された豊富な実験器具・測量機器を目の当たりにして、クラフトマンシップというか、厳格に目の前のことに打ち込む気質を感じ取りました。

午後は鉄道でミュンヘン近くのGunzburgに移動し、日独合同若手ミーティングの会場である古城Reisensburgへ行きました。聞けばこの古城はウルム大学が1997年より所有していて、学会や会議の場として使用しているそうです。歴史ある石造りの古城の構内で3日間、現代科学の研究発表を聴くという貴重な体験をすることができたことに感動しています。
 今回のミーティングのテーマは「発生現象のイメージングとモデル化」でした。私はNotch1受容体の細胞内イメージングに取り組んでいますが、今回30あった口頭発表の中には、いくつかNotchシグナルを介したパターン形成のモデル化に取り組んでいるものがあり、改めて生命科学の多様な研究対象が有機的につながりあっていることを実感できました。
 この会期中には60人ほどの全参加者が同じ食堂に集い3度の食事を取るため、「毎日5人と新しく知り合い会話を楽しむこと」という目標をGfEのオーガナイザーから与えられたこともあり、たくさんの大学院生やPostdocと交流し、彼らの人柄や大学院での研究環境、将来展望などを聞くことができました。日本とは異なり、ドイツはアカデミアとインダストリーの間の行き来が盛んであるため、彼らが柔軟に(楽観的に?)将来の進路を考えていることや、ドイツのどこの大学に行っても一定水準の予算があるため独創的な研究を進めていくことができることなどを聞き、ドイツの研究環境の強みやしなやかさを認識しました。日本の科学界に散見される、捨て身タックルに見えなくもない一点豪華主義的な「選択と集中」が、他国のシステムの良いところを吸収して改善されていけばいいなと思いました。

今回のミーティングに参加した目的の1つであった、共同研究先を見つけることは叶いませんでしたが、初めのワークショップで画像取得・解析手法に学びが得られたことや、ドイツの活気溢れる若手研究者と個人的なつながりを持ち、ドイツの研究社会への理解が得られたことは大きな収穫でした。ここで得られた学びや気づきは、今後の私の進路で出くわす国際交流の場で必ず生きてくると自負します。

末筆となりますが、このような素晴らしい機会と助成を提供して下さいました上野直人先生をはじめとする日本発生生物学会の関係者の皆様、移動の列車の中で地政学の面白さや日本の科学界について語ってくださったCanvas Alev先生、そしてこのミーティングの参加を後押ししてたくさんの面倒を見てくださった森本充先生に深い感謝の意を表します。有り難うございました。