○小阪 美津子
京大・再生研
再生は不可能と考えられてきた哺乳類中枢神経系においても、神経幹細胞が
存在する事や、骨髄、皮膚、骨格筋などの成体組織中において、三胚葉由来の組織すべ
てに分化できる成体幹細胞が存在する事などが近年次々に報告されてきた。このように、
成体組織中にも多大な可塑性を有する細胞が存在するという事実は、自分自身の細胞を
活用する理想的な再生医療の可能性を提唱すると同時に、動物体制構築と維持のしくみを
基礎生物学的に理解する上で重要な知見と考えられる。
我々は、成体組織幹細胞の基本的理解と再生医療への応用を目指し、眼の中の黒目細胞
(虹彩色素上皮細胞:IPE細胞)に着目し研究を行っている。IPE細胞は、成体イモリにおい
て、レンズ再生を担う細胞であり、実際的に成体組織内で全く別組織の細胞へ完璧に変身
できることが古くから知られる。虹彩上皮組織の一部をヒトの眼から少量採取することは、
臨床上容易であるので、この細胞を用いて目の主要組織を補うことが可能となれば、自家
移植による再生治療に直結することが期待される。
これまで、鳥類、哺乳類のIPE細胞を生体外で培養し、細胞の分化状態を試験管内で制御
することを試みてきた。純培養、網膜胚性幹細胞との共培養、生体眼球内への移植などの
実験系を用いて解析した結果、鳥類、哺乳類眼球から単離したIPE細胞には、イモリの色素
上皮細胞と同等の可塑性を有する細胞が含まれることが示された。すなわち、鳥類のみな
らず、哺乳類のIPE細胞も、生体外に取り出し培養することが可能で、適する環境を与えれ
ば、遺伝子導入操作を加えることなく、レンズ細胞や特定の網膜神経細胞へ分化を誘導で
きる事が初めて明らかとなった。また、哺乳類IPEより単離した細胞のうち一部の細胞が、
神経幹細胞の選択的培養法により、neurosphereを形成し神経幹細胞の性質を有すること
を確認した。さらに、一旦確実に分化した均一な細胞で構成されているように見える生体I
PE組織の中に、より未分化な多能性幹細胞が一部存在する可能性を見出しており、分化
転換現象を再考する必要が生じてきた。本講演では、我々の最近の知見を中心に紹介し、
成体組織幹細胞の可塑性についての理解に迫りたい。
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