JAPANESE SOCIETY of DEVELOPMENTAL BIOLOGISTS

構造美と機能美I

構造美と機能美I

-かたちづくりの力学-

構造美と機能美I

booklet24

収縮力を生み出すタンパク質で構築される、精美なチカラのネットワーク。胚の発生過程は力で満ちています。生物の形づくりの仕組みを力学的な視点から解明するアプローチが重要になってきました。

写真幅:約0.2 mm ショウジョウバエの胚


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図1

胚発生では、様々な組織が連続的に形を変え、複雑な体構造を構築していきます。このダイナミックな胚の形づくり(形態形成)は、細胞の増殖・分化につづく発生の基本柱の1つです。 私たちはショウジョウバエの卵(図1)を実験モデルとして用いながら、特に「上皮(細胞が並び密着して作られる強固なシート状組織)」(図2左)の形づくりを研究しています。胚発生において、上皮組織は伸びたり盛り上がったりへこんだりと、まるで折り紙のようにダイナミックに変形して生物の複雑な体構造を作り上げていきます。上皮は体表面だけでなく消化管だったり循環器だったり、体の内外至る所に存在する基本的な構造です。従ってそのメカニズムの解明は発生生物学における中心的課題です。


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図2

組織の変形は構成する個々の細胞の変形・移動によって支えられています(図2右)。私たちはそうした個々の細胞のレベルから上皮形態形成機構の解明に挑んでいますが、ここに「力学的視点」を積極的に取り入れています。細胞が運動するとき、そこには必ず「力」が存在します。胚の中で細胞は常に何かしらの力を生み出し、また力を受けながら器官や体の構造を作り上げていきます。細胞や組織の力学(かかる力の大きさや分布、能動的・受動的等)を知ることで、その変形の仕組みを機械的に理解することが出来ます。また、発生過程では遺伝子やタンパク質等の分子的因子が正しい場所とタイミングで機能することが重要ですが、そうした分子的因子の時空間的な機能調整を力の変化が担いうることが明らかになりつつあります。形態形成と力は蜜月関係。分子の機能や動態に加え、力の役割も考慮することが肝要です。

最近私たちは、ショウジョウバエの背側閉鎖時(動画1)の上皮組織をモデルに用いた研究を通して、上皮細胞がどうやって様々な変形を引き起こすのか、その基礎となる力学をミオシンIIというタンパク質の動態の視点から明らかにしました(動画2)。

またそうした細胞変形に付随して、いくつかのタンパク質が力依存的でダイナミックな変動を示すことも見出しました。このように力学的要因に着目した研究は、「分子的因子の変化→細胞の変形→力の生成→組織変形/分子的因子の変化」という形で形態形成の連続的な仕組みを少しずつ解き明かし、より正確な発生のメカニズム理解に貢献していきます。


分子的視点に加え、生物の形づくりの仕組みを力学的視点からも解き明かす重要性が近年ますます認識されています。卵の中の力はとても小さいですが、胚発生にとっては無視できない大きな大きな力なのです。

シンガポール メカノバイオロジー研究所 研究員・原佑介

Web: http://researcherysk.wixsite.com/home-jp

シンガポール メカノバイオロジー研究所 主任研究員・遠山 裕典

Web: http://mbi.nus.edu.sg/yusuke-toyama/