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学会見聞録
第32回発生生物学会 (1999/5/28-30)
第32回発生生物学会に参加して
1999.8.22
基生研・細胞増殖 粟崎 健
今回はじめて、発生生物学会に参加しました。今までにいくつかの異なる学会に参加した経験から各学会はそれぞれ独特の雰囲気があり、時には敷居が高く感じ ることもあると認識しておりました。そこで、小心者の私は「発生生物学会の雰囲気が肌に合わなかったらどうしよう?」などと、参加前は余計な心配をしたも のでした。しかし実際、学会に参加してみると、全体的にカジュアルな雰囲気のおかげで初対面の方々とも(相手はどう思っていたかは別として)気さくに討論 することができ、これが余計な心配であったことがわかりました。おかげで、3日間、学会を満喫することができましたと同時に良い刺激を得て研究室にもどる ことができました。学会から少し時間も経ち記憶も薄れ気味ですが、それでも頭に残っているような私が受けた刺激と、はじめて参加したものとして感じたこと について、書きたいと思います。
私がこの学会で一番期待していたのは、「現象を記載することからから新しいパラダイムの発見につながるような研 究」を目にすることでした。そんな観点から、特に2つの研究発表には興奮を覚えました。その一つは初日のシンポジウムのなかであったPourquie博士 の「A molecular clock linked to vertabrate segmentation」とういう口演で、somiteがrostral側から一体節づつ分化する際にpre-somitic mesodermにおけるhairy遺伝子の発現がsomiteの分化にあわせてoscillationする話。そしてもう一つは、2日目のワークショッ プ「How do cells recognize their positions and find their targets?」におけるRamirez-Weber博士の「Cytonemes: cellular processes that project to the principle signaling center in Drosophila imaginal discs」という口演で、ハエの翅原基においてsignaling centerとなるanterior/posterior の境界に向かって周辺の細胞がcytonemeと呼ばれる線維を伸ばして連絡しているという話です。
どちらの話も、「これらの現象の発見から何が予想されるのか?」これを考えただけで、口演の途中からわくわくしてしまいました。どちらの話も記載した現 象が「実際の発生に必要なものなのか?」そして「一体どう機能しているのか?」といった問題をこれからの研究の課題として残していますが、私は機能がどう であれ「こんな不思議な現象を生物が持っていること」に、ただただ感心してしまいました。そして、それと同時に「彼らはいかにしてこれらを見つけたのだろ うか?」、「どうしたらこういう発見ができるのだろうか?」こんな疑問が生じました。Pourquie博士の研究は、おそらく、最初は調べるたびに遺伝子 の発現パターンが変わってしまう、そんな実験結果からその原因を詳細に調べることで、oscillationという考えにたどり着いたと予想されます。ま た、Ramirez-Weber博士には、どうやって"cytoneme"なるものを見つけたのか直接尋ねたところ。実は本当に偶然のことだという返事が 帰ってきました。彼が言うには、全く別の目的でショウジョウバエの翅原基を取り出して観察しようとしていたところ、たまたま聞きたいセミナーがあって、観 察途中のサンプルをしばらく放置してしまい、それをセミナーから戻ってきて観察したところ、翅原基の一部から線維状の物が伸びているのを見つけたのがはじ まりだとのことでした。
作り話のような話ですが、一つの結果から新しい概念につながるような現象を見つけだす、その感性には頭が下がりました。例えば同じような場面に遭遇した ときに、自分は同じように見つけるとができるのだろうか?自分にはそのような能力があるのだろうか?また、ひょっとしたら、自分が今まで行ってきた実験の 中にも何か新しい現象が隠れていたのかも知れないし、これからも実験結果の考察しだいで新しい概念を導くような現象を発見できるかも知れない。この2つの 演題はそんな不安と期待を同時に与え私を刺激するに十分なものでした。
初参加の私に発生生物学会が特に新鮮に映ったのは、研究対象の豊富さでした。そのおかげで様々な生物で様々な組織を用いた研究の演題を見て回ることがで き、「進化という時間軸と発生の関係」や「多方面から発生現象を見ること」を自ずと意識させられました。ただし、残念ながら期待して発表を見たものの、不 勉強の私には、いったいどういった生物のどんな組織が研究材料に取り上げられているのかイメージできず、塩基やタンパク質の配列とゲルの写真それに一部の 組織の拡大像に呆然としてしまう発表もありました。使われている生物がどのくらいの大きさでどんな形をしていてどういった特性があるのか、そしてその生物 のどこに着目しているのか?そんなことが理解できていたら個人的にはもっと深く理解ができた気がしました。日程や会場の問題もあり難しいとは思いますが、 「百聞は一見にしかず!」ですから、様々な実験対象の生物がどこかに展示される機会や、それらに直に接することができるコースなどが行われれば良いなと思 います。
今ひとつ不思議に思えたことは、植物の発生の話が極端に少ないことです。発生の教科書にも、発生の専門雑誌でも植物の研究を見かけるのに学会では植物の 演題が少ないというのは何か違和感をがありました。私自身は植物の発生に対する知識は少ないので、植物の演題がいっぱいあったとしてどこまで理解できるか は疑問ですが、それでも学会で直接植物の発生に関する演題を聞ければ、生物に共通するような発生のメカニズムや、その多様性についての考えが深められるよ うな気がしました。
公開シンポジウムのコンセプトと各スピーカー、そしてなによりもその発表順序は実に気に入りました。企画された方の術中にまんまとはめられてしまったとい う気はしましたが、それはそれで心地よいものでした。学会会場に使われた真新しい建物とその中の充実した設備が先の大震災と無縁ではないことを考えると少 し複雑な気分でしたが、学会会場の素晴らしさにはとても驚きました。それと同時にコンピューターを活用した演題や、他会場の進行状況の表示、そしてスムー ズな大会運営、これには準備・運営に携わられた方々の気合いとご苦労を感じました。最後になりますが、楽しく、そして刺激的な時間を演出した下さられた大 会の準備・運営に携わられた方々に心から感謝いたします。
1999/5/28-30 第32回発生生物学会
掲載:1999.8.22