就任にあたって

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就任にあたって

就任にあたって

会長 相澤 慎一

このたび浅島誠先生の後任として第20期日本発生生物学会会長をお引き受け致しました。言うまでもないことですが、私はその任に相応しい品格を有していないだけでなく、その任に値する識見・能力も有しておりません。会員の皆様から御忌憚なく直言を頂いて、会の運営にあたることがすべてで、何卒宜しくお願い申し上げます。本年は"10年目の反省"の年であり、1月13日に運営委員会と前後してこのための WGも開かれました。それぞれについて別に事務局から皆様にご報告があるはずで重複になるとは思いますが、両会での議論を踏まえ、特に皆様に御議論頂き、ご意見をお寄せ頂きたいと思いましたことを以下に述べさせて頂き、就任の挨拶とさせて頂きます。

  日本発生生物学会が現在抱えている最大の具体的課題は、NPO 法人化問題と DGD のあり方です。未だにわか勉強中ですが、学会をNPO 法人とすること、かつ早急にこれを行うことは不可避のことであるかもしれません。NPO 法人化は事務局体制の強化なくして成り立たずこれがどう可能であるかなど、運営委員会(上野幹事長)の下で諸課題を早急に洗い出し議論頂いて、その必要が有れば5月末の総会で会員の御判断を仰ぐまでにこぎつけたいと考えています。これを機に懸案である学生会員費の大幅値下げなども実現したいと考えます。

  かつて DGD は財政的に学会の重荷で、江口吾朗先生の大変なご努力により BLACKWELL 社に移管されたとお聞きしております。しかし10年を越えて現在では BLACKWELL 社の下での出版に多々の問題が生じており、科研費(研究成果公開促進費)に依拠しつづけることにも困難が生じています。DGD の online journal 化と open access も現実的課題として検討されるべき機にありますが、これにも編集局体制の充実は不可欠です。仲村先生の下で DGD のあり方を抜本的に考えて頂くことになりましたが、本件に関しても本年の総会で議論頂けるようにしたいと思っております。

 振り返ってみれば発生生物学は今、内からも外からも大きな節目を迎えていると思います。かつて我々は山の上の雲をみてその頂きに心を馳せつつ、山の麓の "発生学の花園"に居ました。しかしこの15年程の間に発生研究はかって麓からみた頂きには登ってしまった感があります。この間達成した日本の発生研究の国際的水準には、我々は大いなる自負をもって良いと思います。しかし次の頂きは発生研究者に今単一にみえるわけではありません。雲の見え方はそれぞれに変わってきますし、かつてのように心馳せる雲ではないところもあると思います。発生分野に限ってのことではないでしょうが、上の世代に伍し越えようとする35前後の若い人の汗とかけ声が、嘗てのようによく見え、響いてこないところがあります。このような発生生物学の流れは、発生生物学会の流れでもあらざるを得ません。折から我が国の研究世界には重点化の名の流れがあり、もろもろの課題を具象するかのように特定領域研究に"発生"が無くなりました。

 日本の発生研究の流れは一面では会員数の変化に象徴されるのでしょう。1968年設立当初444名、1988年に796名であったのが1998年に1340名、2003年に最大数1494名となり、本年は1316名、今後はむしろ減少の方向を向かうかも知れません。当学会と日本分子物学会の発生セッション、動物学会の発生セッションの参加者の間には重ならないところがあり、本学会からこれらの学会に研究者がシフトした分野も少なくありません。 Stem Cell Biology の研究者にとって本会はどの様な学会となりつつあるのでしょうか。本学会は理学部発生学を基盤としてきました。会員数が増え、大きくなることが良いこととは限らず、本学会はむしろそうではない方向で出発したと思います。しかし多分野を抱え様々なトピックをもちやすい分子生物学会、動物学会に比し、本会の大会は今日、ややもすると内容が均一化し、各研究の進捗状況は測り得るが、わくわくすることが少ないということはないでしょうか。周辺分野、テクノロジーをシンポジウム、ワークショップで積極的に取り込む努力が必要かもしれません。従来大会は、お願いした大会長にモチーフを発揮して頂く、全ての企画をお任せするという形で行ってきました。発生研究者の多い中央の都会ばかりでなく、全国で開催して、全国の研究をバックアップしたいということもあります。これらのことと国際化の課題と併せ、大会の企画の仕方を少し工夫する時期に来ているかも知れません。運営委員会で来年以降の大会長と具体的姿を詰めたいと思っております。細胞生物学会との合同大会の意義については本年の合同大会を基に議論頂くことになります。大会長に大会開催に過度の負担がかからないようにする工夫も懸案です。

 大会の別の課題として、既に方針の決定されている国際化、発表の英語化をどう具現するかがあります。幸い山村先生にお願いした本年度の学会では細胞生物学会との合同大会の下で英語化に大きく踏み出して頂き、野地先生にお願いしている来年の大会は国際発生生物学会 (ISDB、竹市先生会長) との合同年会として、大会英語化の一応の姿を示して頂ける方向となりました。一定数の欧米の研究者の参加も得て、日本の発生学会大会がアジア・オセアニア地区の発生研究者に開かれた形になるよう努力することは、いわば使命みたいなところがあると考えます。

 特定領域研究"発生"が無くなったことには発生学研究の流れからのある必然を感じます。しかし、特定領域研究"発生"はこれまで2つの重要な役割を担っており、これを失ったことは大きな痛手です。一つは公募研究により全国での研究、若手の研究を資金的に支えてきたことです。重点化の流れの中で、全国の大学の研究の疲弊を狙っているが如き「大学改革」の中で、日本の発生研究の豊饒な裾野となる全国での研究、若手の研究が枯渇することへの危機感を強く思わざるを得ません。みそもくそも全てを救えなどありえないことですが、発生分野に限らず基盤Cなどの採択率を上げることが本来の姿に思えます。このためには、科学政策としての科研費配分のあるべき姿について、生物科学学会連合などに協力して、きちんとしたシミュレーションに基づいた提案をしていくことが、時間がかかるとはいえ必要な努力であると思います。同時に、分野への配分額を申請数により決める現在のルールの下で、特に生物科学発生生物学へは必ず申請して頂くことを会員の皆様に強くお願いいたします。有力な即効薬がすぐあるわけでなく積み重ねていくより他ありませんが、中央、恵まれたところの一人勝ちということは続き得ないことで、一時のその報いとして必ず自らにバチのあたるべきことを肝に銘じて頂き、可能なご尽力を是非お願いしたいと思います。

 特定領域"発生"のもう一つの貢献は、春の大会とともにこの場が全国のPI、特に若手PI、PI 候補者の情報交換、研究交流の重要な場となっていたことです。大学共同利用機関などの協力を得て、これに代わる場を秋に学会として組織したい、それも本年より行いたいと考え黒岩厚先生に検討をお願いしております。加えて、大会の英語化の一方で大学院生を対象にSummer School のようなものを組織することも検討課題と思っています。大学院生の研究であっても、それは当然世の研究に伍するものでなければならず、自慰的な、あるいは、庇護された学芸会を開くことには意味がありませんが、前期課程大学院生,他分野の大学院生、さらには学部学生に発生学への興味を刺激する場を構想することは出来ないものでしょうか。

  加えて、教養教育の敗退もあり全国の大学生物学科で、学生が発生学の講義を受ける機会のないまま卒業するところも少なくないのではとの危機感もあります。私見ですが、発生生物学会がこのような大学に講師団を組織して派遣する意義はないでしょうか。団塊の世代も念頭にすれば、すぐれた研究をされretire される方々の中に、ボランティアとして質の高い教育に興味を見いだして頂ける方は多くいらっしゃると思うのですが・・・

 最後に、40~35の世代の声と地方の声がよく聞こえないところがあると思っており、何人か運営委員を会長指名させて頂きたいと思っております。相澤 (saizawa@cdb.riken.jp) まで名乗り出ていただき、またご推薦いただけませんでしょうか。

 以上運営委員会、"10年目の反省"WGの議論をまとめてみました。日本発生生物学会ホームページに、「会員の意見」を書き込むページを設けましたので、事務局桃津(momozu@jsdb.jp)へとともに、積極的に忌憚のない御意見をお寄せ頂けるとまことに有り難く存じます。