ミスコンダクト不正行為について

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ミスコンダクト不正行為について

ミスコンダクト不正行為について

基礎生物学研究者は本来 それぞれが出会う不思議に惹かれて それを明らかにしたいと研究をするものだと思います。独創的な研究をするために研究するわけではなく、人のやらないことをするために研究するわけではなく、他の人の関心を惹くために研究をするわけではなく、経済発展・国威発揚のため研究するわけではないと思います。不思議を解き明かすことにかまけるうちに 他の知ともふれあい 独創的な研究となり、分野に貢献する大切なことを見つけられたら それは研究者冥利ということです。他方、われわれの研究費は税金によっており、この時代研究者は professional に貢献が問われます。人間そんなにたいしたものでなく、有名になりたい欲や いい地位につきたい欲も研究の大きなモチーフと多くの方が言われるでしょう。しかし、"米国流"グローバル化、成果主義の時代、そして科学研究おけるミスコンダクトかまびすしきこのごろ、<まずは改めて研究者の本来の心を>と言ったら時代遅れも甚だしいのでしょうか。

  科学技術会議は浅島誠委員長の下平成18年に科学者の行動規範(暫定版)を作成し、「科学のミスコンダクト」を学術会議叢書にとりまとめ、翼下の各学会に倫理綱領の制定を呼びかけています。しかし、多くの他の理学系学会同様、日本発生生物学会が倫理綱領の制定やミスコンダクトに対するルール作り、罰則作りに今取り組むべき情況にあるとは思えません。"外国"をすぐ物まねするのでなく、ルールや綱領を設けないですむことは重要な文化土壌であり、何よりこの土壌を守りたいと思います。信義をたがえることは その研究者の存在にかかわって恥ずべきことで、恥として律しえるそういう文化を我々はまだ有していると思っています。

  ミスコンダクトの問題では、内向きに会員に「不正行為はやめましょう、とめましょう」という視点だけでなく、学会の外に学会がどう自立するかという視点の確立も求められているのでしょう。学会は研究者の私的集団の次元を超えねばならず、NPO 法人化も同じ課題を提示しているのでしょう。仲間内の物差しだけで考えていないか注意しなければなりません。我々学会が、一般社会の組織と違ってある autonomy が許されている裏付けとして、社会的責任、公益的責任、倫理的責任が当然あります。

 人は間違いを犯しますし、また弱いもので間違いを隠したくなります。間違いのあること、人間は弱いことを認めない社会は最悪ですし、間違いは開かれた議論によって乗り越えるべきものです。しかし不正行為は間違いとは別で、研究者の存在に関わる恥ずべき行為です。とはいっても、不正行為をする研究者が必ず現れるのも人間社会というものだと思います。特に現今 "任期制、評価、重点化"などがかまびすしく響く中では・・・。フェイクは今に始まったことでなく、研究の流れがフェイクによって左右されたことも多々ありました。例えばテラトカルシノーマに始まるES研究も、クローン研究も、フェイクに導かれ また 惑わされ今日があり、フェイクは科学文化の一側面でもあるのでしょう。この下で研究者には、データーを保管し、疑惑に対して自ら明らかにする責任が求められており、自ら明らかに出来なければ不正行為と判断されてもやむを得ない今日です。有能な大学院生、ポスドク、助手が意図的に作成した不正データーをPI が見抜けないということも当然あり得ることです。しかし、その成果で世の評価を獲得するPIに最終的責任はあり、不正行為の疑われた場合これを自ら明らかにし開示することは PI の責務で、責任を大学院生、ポスドク、助手に押しつけるなどあり得べからざることです。論文審査で不正行為を見抜くなどふつう出来ないことで、個々的な不正行為の発覚は多く内部告発によりますが、ムラ・タテが依然として残る日本で告発者をどう守るか学会としても注意を払わなければならないと思います。 RNA 学会は多比良教授の影響力大きい一連の研究成果に関し、再現性が得られないとの多くの研究者の指摘から、東大に調査を求めました。学会としてどう対処するのが適切かは個別に判断するしかありませんが、発生生物学領域での影響力ある研究不正疑惑には、学会として正面から取り組まなければならないと思います。

 同時に、不正行為の調査が、その研究者の属する組織を守るために研究者の切り捨てとして行われないよう学会としては監視する必要があります。多くの研究者を抱え、多額の研究資金を獲得している影響力の強い組織にややもするとこの傾向があります。調査はその組織に属するものによってでなく、第3者機関によって行われるべきことは当然の条件です。発生生物学領域での不正研究疑惑の調査に学会は一定の役割を果たす意志のあることを表明したいと思います。